【目的】抗悪性腫瘍薬のパクリタキセル(PTX)は,薬物代謝酵素のCYP2C8とCYP3A4により代謝されるため,それらの阻害薬の併用時に体内からの消失が遅延し,副作用が重篤化する恐れがある.最近,代謝物がCYP2C8阻害作用を有するクロピドグレル(CLP)の併用患者において,PTXの副作用の重篤化が報告された.我々も,少数例のCLP併用患者でPTXによる好中球減少の重篤化を経験した.今回,さらに症例を追加して,PTXによる白血球減少に及ぼすCLP併用の影響について,アスピリン(ASP)併用患者と比較したので報告する.【方法】2013年から2021年に当院でPTXを投与された患者のうち,CLPを併用した16名(CLP併用群)及びASPを併用した31名(ASP併用群)を対象として,臨床検査値,併用薬及び副作用の発現(白血球・好中球減少と発熱性好中球減少症(FN)の発症)を後ろ向きに調査した.白血球及び好中球減少症の重症度は,CTCAE v5.0 - JCOGに従って評価し,grade 3/4の発現率を両群で比較した.本研究は,筑波大学附属病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て行った.【結果・考察】PTX投与前の白血球数と好中球数は,CLP併用群とASP併用群の間で差はなかった(白血球数6.4: 3.1~14.8 vs. 5.6: 3.0~23.2 ×103/μL, 好中球数4.07: 1.28~12.59 vs. 3.85: 1.71~22.30 ×103/μL).PTX投与後の白血球数と好中球数は,CLP併用群で有意に少なかった(白血球数2.0: 0.5~2.9 vs. 2.7: 0.7~5.4 ×103/μL, P<0.01, 好中球数0.89: 0.07~1.49 vs. 1.14: 0.12~3.19 ×103/μL, P<0.05).また,白血球数と好中球数の減少率も,CLP併用群で有意に大きかった(白血球66.9±14.1 vs. 51.1±17.6%, P<0.01, 好中球76.9±14.8 vs. 63.2±19.2%, P<0.05).Grade 3/4の白血球減少症の発現は,CLP併用群で有意に高く(50.0% vs. 19.4%, P<0.05),同様な傾向は好中球減少症でも認められた(68.8% vs. 38.7%, P=0.051).FNの診断は,CLP併用群の3名(18.8%)のみであった.PTXによる好中球減少は血中PTX濃度と関連する報告があることから,CLP併用患者ではCYP2C8の活性低下によって高い血中PTX濃度が持続した可能性が考えられた.【結論】CLPの併用は,ASPの併用と比較して,PTX投与による重篤な白血球減少を発現する頻度が高いことを確認した.CLPの併用下でPTXを投与する際は,FNの発症リスクを考慮して,減量等を検討する必要がある.