【目的】複数のCYP分子種の代謝が関わる薬物相互作用(DI) について、我々は得られる限りの情報を効率的に活用して変化を定量的に予測し、医薬品適正使用に貢献することを目指している。本研究では我々の樹立した薬物曝露の予測を各医薬品の現在の注意喚起と照合し、アナウンスの妥当性や問題点を探ることを目的とした。
【方法】解析対象として、臨床試験で観測されたCYP1A2, 2C9, 2C19, 2D6, 3AのCYP基質薬67薬剤と阻害薬30薬剤を選択した。これらの併用によるAUC変化率(AUCR)のin vivo情報、分子種間の相対的関係を示唆するin vitro情報を用い、両情報をベイズ理論に基づく数理的解析法により統合することで、全2010の併用組み合わせによるAUC上昇率を網羅的に予測した。その結果から各薬剤のDIリスク分類を行い、臨床試験のAUCR値に基づいたFDAやPMDAによるリスク分類(1,2)と比較した。
【結果・考察】AUC上昇率の網羅的予測において、in vivo情報のある組み合わせについてAUCRの観測値とAUCRの予測値を比較すると1/2~2倍以内の信頼精度で求まることを確認した。その際得られた、各CYPの基質薬代謝への寄与率や阻害薬の各CYPへの阻害率の推定値に基づき各薬剤のDIリスク分類を行ったところ、FDAやPMDAの分類と概ね一致した。一方で、特にmiconazoleやvoriconazoleをはじめとするアゾール系抗真菌薬については、複数のCYP分子種に類似した強度の阻害作用を示すin vitro情報がある一方で臨床試験情報が限られていることから、FDAやPMDAの分類では一部のDIリスクが見逃されている可能性が示唆された。
【結論】in vitro試験で阻害が示されているにも関わらず、臨床試験では十分に調査されていない薬剤が散見された。今後DIマネジメントにおいて、in vitro情報を適切に活用することで臨床試験情報の不足を補完できると期待される。
【参考文献】
1) FDAリスク分類(https://www.fda.gov/drugs/drug-interactions-labeling)
2) Maeda K and Hisaka A et al. DMPK, 2021, in press