【目的】
ワルファリン(Wf)は薬物動態および感受性の個人差が大きく、効果発現まで数日を要するため、患者ごとの維持用量の決定に時間を要する薬物である。Wf投与後の抗凝固能の指標にはプロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR)が用いられている。我々は,臨床試験シミュレーションを行い、Hambergらが報告したWf母集団kinetic-pharmacodynamic (K-PD)モデル1)とベイズ推定を用い患者個人のPT-INR経時的推移を予測し投与量を決定する方法は、ノモグラムを用い投与量を決定する方法に比べ目標PT-INRが得られる確率が高いことを報告した2)。また、Wf投与後の出血イベントに腎機能が関与していることを報告した3)。本研究では、日本人患者のPT-INR予測精度の向上を目的とし、日本人を対象とした母集団K-PDモデルを新たに構築した。
【方法】
東京女子医科大学東医療センターにて2015年6月から2019年6月の間にWfを投与開始した患者を対象に後ろ向き観察研究を実施した。モデル構築にはNONMEM 7.4を用いた。Hambergらが報告した母集団K-PDモデルのパラメータを事前情報とし、PRIORサブルーチンを用い、モデルパラメータを推定した。薬効発現の個人差の予測因子として、年齢、体格、臨床検査値を検討した。本研究は、東京女子医科大学倫理委員会(5307)および日本大学薬学部倫理審査委員会(19-007)の承認を得て行った。
【結果・考察】
対象症例61名(年齢:74.2±10.0歳、eGFR:50.8±28.4 mL/min/1.73m2)の705採血点を解析に用いた。薬効発現の個人差の予測因子として血清クレアチニン (Scr)が検出され、Scr依存的に感受性が高くなることが予測された。K-PDモデルによって予測した個別予測値とPT-INR測定値との相関係数は0.74であった。 腎機能を考慮することにより、Wf投与後PT-INR推移の予測精度が向上すると考えられた。
【結論】
日本人患者を対象に、Wf投与後のPT-INR推移を予測する数理モデルを構築した。Scrを用いて患者のPT-INR推移を予測することで、投与計画の個別化に寄与すると考えられる。
【参考文献】
1) Clin Pharmacol Ther. 2010; 87(6):727-34.
2) TDM研究. 2016: 33(1);15-23.
3) Eur J Clin Pharmacol. 2017; 73(11):1491-1497.