【目的】病院でのバンコマイシン(VCM)TDM実施例についてガイドラインによる推奨内容の達成状況を調査する。既報のVCMの母集団薬物動態(PPK)モデル6種1-6(現場で用いられるTDMソフト2種を含む)の予測性の違いを検討する。【方法】対象:2018年4月~2020年3月、市中総合病院(病床340床)でのVCMのTDM実施例130人。18歳未満の患者、透析患者は除外。(1)初回血中測定値(トラフ値)がガイドラインの推奨範囲内であった割合を算出した。(2)各PPKモデルにより各患者背景情報から血中濃度予測値を算出し、データセット全体で予測値と実測値の差が小さいと低値となるrelative root mean square error (rRMSE)により予測性能を比較した。【結果・考察】(1) 初回測定値が推奨範囲内であった患者は44人(34%)であった。 (2) 横山らの報告したPPKモデルのrRMSEは50.5%であり最も優れていた。推奨範囲10-15μg/mLから許容されるずれを5μg/mLと考えると、予測性能に改善の余地があると考えられた。【結論】今回分析を行った医療施設において、TDMの初回血中濃度(トラフ値)は半数以上の例で推奨濃度域外であった。臨床現場で利用されるTDMソフトのPPKモデルよりも優れた予測性能を示した既報モデルにおいても、予測値と初回血中測定値の差は未だ改善の余地があると考えられた。【文献】(1)Yasuhara M, et al. Ther Drug Monit. 1998;20:139-48. (2)大島梢他. TDM 研究. 2005;22:159-60. (3) 横山泰明他. TDM 研究. 2010;27:S138. (4)Winter M E. Basic Clinical Pharmacokinetics, 3rd, Lippincott Williams & Wilkins. 1994; 474-99. (5)Yamamoto M, et al. J Clin Pharm Ther. 2009;34:473-83. (6)Winter M E. Basic Clinical Pharmacokinetics, 5th, Lippincott Williams & Wilkins. 2010; 459-87.