【目的】1,5-Anhydroglucitol(1,5-AG)はグリコヘモグロビンやグリコアルブミンに比べ、直近の血糖コントロールの指標として有用性が期待されている。1,5-AGは体内でほとんど生成されず、食事によって体内に取りこまれる。血中の1,5-AGはD-グルコースと同様に糸球体濾過され、腎近位尿細管において再吸収されると考えられている。尿細管における1,5-AGの再吸収は、D-グルコースによって競合的に阻害されると考えられており、血漿中1,5-AGレベルは血糖値と逆相関することが報告されている。本研究室では、1,5-AGを高感度で測定できる高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS/MS法)を構築してきた。本研究では糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの血漿中1,5-AG濃度に及ぼす影響について検討した。【方法】1,5-AGは、島津製作所の高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計LCMS-8045を用い測定した。Wistar系雄性ラット(250-330 g)をモデル動物とし、vehicle(生理食塩水)またはダパグリフロジンを投与した。投与前後に経時的に採血、採尿を行った。得られた試料中の1,5-AGはLC-MS/MS分析によって定量した。【結果・考察】通常飼育下、ラットの定常状態における血漿中1,5-AG濃度を測定した結果、10 μg/ml程度と一定の値を示した。Vehicle投与によって血漿中1,5-AG濃度は投与前後で変化が認められなかったが、ダパグリフロジン投与後は血漿中1,5-AG濃度が投与前に比べ有意に低下した。さらに、尿中1,5-AG排泄量はvehicle投与によって影響を受けなかったが、ダパグリフロジン投与によって有意に上昇した。【結論】SGLT2阻害薬ダパグリフロジン投与によって、尿中への1,5-AG排泄が増加し、血漿中1,5-AG濃度が低下することが明らかとなった。今後、より詳細な1,5-AG体内動態について明らかにするとともに、各種糖尿病治療薬の影響について検討を進めることを予定している。