【目的】治験の被験者候補を選出する際、治験参加前の診療情報を参照するカルテスクリーニングが広く実施されており、治験実施計画書の適格性基準を満たしている"と思われる"被験者に治験のスクリーニング検査を実施することが多い。しかし、認知症治験における脱落率は全世界的に高いことが知られており、治験依頼者および実施医療機関に共通した非常に重要な課題である。そこで本研究では後方視的カルテ調査により、これまで治験に参加した被験者を対象として認知症治験における脱落に影響を与える因子を検討した。
【方法】2014年4月1日~2020年3月31日に実施した軽度認知障害から軽度アルツハイマー型認知症(以下、AD)が対象の治験に参加した被験者を対象とし、治験参加前の診療情報をカルテ調査にて収集した283例のうちMini-Mental State Examination(以下、MMSE)データを有する178例を解析対象とした。研究対象者の背景(年齢、性別、生活環境)、高齢者総合機能評価(認知機能(MMSE)、日常生活動作(Barthel Index)、手段的日常生活動作(IADL)、老年期うつ尺度(GDS15)、意欲(Vitality Index)等)、認知症診断名、抗認知症薬服用歴、各種臨床検査、画像検査(頭部MRI、脳血流シンチ)、脱落理由、各検査実施日などを因子として、スクリーニング検査における転帰で比較検討した。統計解析にはSPSS for Windows ver.26を用いた。
【結果・考察】認知症治験における脱落を予測する因子は「脳血流シンチの読影結果がnon AD/ DLB(レビー小体型認知症)」[OR 3.03; 95%CI 1.16-7.92; p=0.024]、「頭部MRIのVoxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease(VSRAD)のVOI内萎縮度としてZ値の平均値が1.65未満および1.96以上」[OR 3.43; 95%CI 1.25-9.43; p=0.017]であった。多くの治験で適格基準の一つであるMMSEについて、各治験の「MMSEの適格基準の下限値から1点低い」および「MMSEの適格基準の下限値」の被験者と「それ以外の点数」の被験者を比較すると「MMSEの適格基準の下限値から1点低い」被験者に脱落が多い傾向がみられたが有意差はなかった。これらより、治験参加前のMMSEのみでは脱落予測は難しく、脳血流シンチの読影結果及び頭部MRIの結果を複合的に検討することで脱落を予測できる可能性が示唆された。
【結論】認知症治験における脱落を予測する因子は「脳血流シンチの読影結果」、「頭部MRIにおけるVSRADのZ値」であった。