【目的】ラジカット/Radicava(エダラボン静注製剤)は,日本や米国などで筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬として承認され,身体の機能低下の進行を遅らせることが示されている.静脈内に長期にわたり連日反復投与する静注製剤であることから,患者,介護者及び医療重視者への負担が大きく,利便性の高い製剤の開発が強く望まれている.エダラボンの経口懸濁製剤を開発し,薬物動態(PK)及び静注製剤との生物学的同等性を評価する.
【方法】健康被験者又は経皮内視鏡的胃瘻造設(PEG)あり又はなしのALS患者を対象にした非盲検第1相臨床試験(試験1,2,3)を実施した.試験1は,単回クロスオーバーによる健康被験者42例の生物学的同等性試験であり,エダラボン105 mgを経口投与及び60 mg/60分で静脈内投与し,各投与製剤のPKパラメータ,代謝物プロファイル及び消失経路を評価した.また,ALS患者9例(試験2)及びPEGチューブを留置したALS患者6例(試験3)を対象に,エダラボン経口懸濁製剤105 mgを単回投与したときのPKを試験1と合わせて評価比較した.
【結果】健康被験者(試験1)において,60 mg静注製剤に対する105 mg経口懸濁製剤の血漿中濃度下面積(AUC)は生物学的同等性の基準を満たし,最高血漿中濃度(Cmax)の最小二乗平均比の90%信頼区間の上限が生物学的同等性の許容範囲をわずかに超えた.いずれの製剤もCmaxに到達後,血漿中濃度は三相性の推移を示し濃度推移は非常に類似していた.投与経路によらず,主にグルクロナイド抱合体および硫酸抱合体として尿中に排泄され,未変化体の尿中排泄率は低く,未変化体及び代謝物の尿中相対組成比は同程度であった.
ALS患者(試験2)およびPEGチューブを留置したALS患者(試験3)において,投与後の吸収は良好であり,健康被験者(試験1)と同様の血漿中濃度推移およびPKパラメータが得られた.
【考察・結論】経口懸濁製剤が既承認のエダラボン静注製剤の血漿中暴露を下回らず,ほぼ生物学的同等性の基準内であることが示され,忍容性も良好であった.健康成人とALS患者とで差がなく,ALS患者のエダラボン静注製剤での治療を経口懸濁製剤へ切り替え可能であり,また病態の進展で嚥下障害が生じ胃瘻を造設する場合でも,エダラボン105 mg経口懸濁剤を胃瘻から投与できることが示された.
【参考文献】Shimizu H, et al. Clin Pharmacol Drug Dev. 2021 [Epub ahead of print].