【目的】モノアミン酸化酵素B(MAO-B)は様々な臓器に分布して多様な機能を果たしているが、ヒトの全身分布の詳細はまだ十分に明らかにされていない。また最近では、アルツハイマー病患者の脳における神経炎症の一所見として増大する反応性アストロサイトにもMAO-Bが高発現することが知られている。我々は、MAO-Bに特異的に結合する新規PET診断薬剤18F-SMBT-1を開発し、ヒトにおいて脳を含む全身臓器のMAO-B分布に関する基礎データを構築するために初期臨床試験を開始した。【方法】健常成人男性4名(20~50歳代)を対象として、18F-SMBT-1のトレーサーを約185 MBq投与して、適宜休憩をはさみながら約5時間の全身PET測定を断続的に行った。PET画像をMRI画像に重ね合わせて各臓器への集積値を計測し、その時間的変化のパターンを調べた。 【結果・考察】PET薬剤18F-SMBT-1は、薬剤投与初期(最初の5分間)にすみやかに脳、心臓、胃、腎臓、消化管等に分布し、投与後から30分までは比較的高い取り込みを示しつつ、徐々に減少した。その後、肝臓および胆嚢に強い集積が観察され、薬剤投与後期には胆嚢、小腸~大腸、膀胱等に強い集積を示した。胆嚢の集積ピーク値は膀胱の10倍程度となった。また、全身の主要臓器における薬剤集積の変化に被験者間で大きな差異は認められなかった。小腸~大腸の集積所見については、胆汁排泄により薬剤が総肝管を経由し腸管に移動することが結果に影響している可能性が考えられ、生理的集積と排泄に伴う消化管集積が混在していると推測された。【結論】18F-SMBT-1は胆汁排泄の割合が高い薬剤であることがわかった。また、全身臓器のMAO-Bマッピングの目的に十分利用可能な薬剤であるとともに、脳マッピングのために十分な量の脳内分布があることがわかった。