最近のセンシング技術の向上およびIoT(Internet of Things)の進展により,ウェアラブルデバイスや外部センサーを用いて患者の実生活の体動データをリアルタイムに収集することが可能となってきた。そして,病態に伴う無意識の行動の可視化や,自覚症状の定量的な説明に役立つデジタルバイオマーカーの研究が盛んに行われている。
世界保健機関(WHO)はデジタルヘルスに関するグローバル戦略と行動計画を2019年に策定し,デジタルヘルスにより健康的な生活が確保され,人々の幸福を促進する機会の提供が期待されている。アメリカ食品医薬品局(FDA)はDigital Health Center of Excellenceを2020年に創設し,デジタルヘルステクノロジーへの包括的なアプローチの準備を整えている。バイオセンサーとデジタルヘルステクノロジーの活用は,臨床試験においても新しい評価手法となる可能性が考えられる。
アトピー性皮膚炎患者等では,痒みにより皮膚を掻く行為(掻破行動)の睡眠中の発生状況について,治験薬投与前後の変化を評価する際,従来では客観的指標を用いた評価は困難であった。ウェアラブルデバイスの1つである加速度計(例:GENEActiv,ActivInsights Ltd.,英国およびCentrePoint Insight Watch,Actigraph LLC,米国)は,さまざまな身体の部位に着用でき,どのような活動をしていたか,内蔵されているセンサーからデータを収集することが可能である。このデバイスを腕に着用することにより,睡眠中の腕の詳細な動きをモニターでき,掻破行動を客観的指標で評価できる可能性がある。このようなデバイスで収集したデータは,時系列連続データであるため,臨床薬理で従来取り扱っている薬力学データやバイオマーカーとして解析することが可能である。
現時点では,本邦の臨床薬理担当者による体動データ収集の試験計画立案や解析経験は少ないと思われる。今回の発表を通して臨床薬理担当者がデータ構造や解析手法への理解を深め,従来は困難であった課題に対し新たな技術を活用して解決し,患者の実生活における活動の評価や医薬品開発の更なる進展に寄与することを期待する。