【目的】治験計画時の実施期間及び症例集積速度は、対象患者数、被験薬の特性、被験者への負担、既承認薬の有無、同じ疾患領域での経験や予算など様々な情報を基に設定される。治験の実施者は計画に従って治験を開始するが、英国の治験の多くは当初想定していた期間内に完了しないと報告されている。日本の治験の実施期間に関する報告は少ない。本研究では、日本の治験実施期間の現状(特に計画との乖離)の把握を目的とした。
【方法】2013年1月-2020年4月に開始・完了した第2相以降の728試験をClinicalTrials.govで特定し、計画時の実施期間・症例数、実際の実施期間・症例数、対象疾患、スポンサー名等を収集した。728試験のうち、実施期間又は症例数を収集できなかった29試験、試験終了後に初回の情報登録を行った2試験を除いた697試験を分析対象とした。試験の対象疾患を14領域に分類した。スポンサーを内資系、外資系及び企業以外に分類した。
【結果・考察】分析対象の697試験では、計画時の平均実施期間が22.0か月、実績の平均実施期間が21.8か月、3か月(90日)以上実施期間を延長した試験は190試験(27.3%)であった。実施期間を3か月以上延長した試験の割合は、精神系(11試験/23試験、47.8%)、がん領域(41試験/91試験、45.1%)で高く、眼(2試験/18試験、11.1%)、免疫・炎症(29試験/182試験、15.9%)で低かった。企業以外がスポンサーの試験(22試験中12試験、54.5%)は内資系企業(40試験/186試験、21.5%)及び外資系企業(116試験/397試験、29.2%)の試験と比較して3か月以上試験遅延した試験の割合が高かった。
【結論】日本の治験実施期間は平均的には計画と実績に大きな乖離はないが、計画から大きく遅れる試験(逆に早期に終了する試験)も相当数あること、計画からの遅れは精神系、がん領域で目立つことが分かった。計画と実績の乖離は主に症例集積の成否によって生じていると考えられる。症例集積の背景にあるメカニズム(試験デザイン、患者数、被験薬の特性との関係)を考慮し、計画と実績が乖離する理由を更に検討する必要がある。