【背景・目的】臨床研究法(以下、法)が施行され3年が経過した。特定臨床研究(以下、研究)の実施においては、法施行規則及び課長通知で、「臨床研究保険(以下、保険)」への原則加入が規定され、新たな保険商品も登場した。本学の「認定臨床研究審査委員会(以下、CRB)」では、これに基づき、全ての研究で保険加入を原則としている。しかし、研究を企画しながらも、保険料高額のため、研究を断念する事例がいくつか見られている。一方で、法のQ&A 3-14では、「実施計画、研究計画書及び説明同意文書に、保険に加入せず(中略)医療の提供のみを行うこと及びその理由を記載し、認定委員会の承認を得る」ことができれば、保険未加入も認められている。本学CRBにおいても保険加入の判断を柔軟に行う必要性が認識され、医療の提供のみで実施できる研究はどのような範疇のものかを検討している。今回、その検討材料の収集を目的として、本学以外のCRBの対応を調査することとした。
【方法】2018年4月~2021年6月に本学以外のCRBで審査され、本学管理者の実施許可を得た研究のうち、法施行後に開始された研究における保険加入の実態と未加入の際の理由を、管理者許可申請資料を用いて調査した。
【結果・考察】調査対象となった研究は43件であった。このうち、保険に加入している研究は28件(うち賠償責任のみの保険は4件)、保険未加入の研究は15件であった。保険未加入又は賠償責任のみの保険に加入している研究19件のうち、その理由が未記載の研究は5件、記載されているものは14件であった。保険未加入の理由は「通常の診療範囲を超える医療行為ではない」「日常診療から離れたより実験的なものではない」「未知のリスクは少ない」などであった。薬事承認内の医薬品等を用いた臨床研究で、企業資金で実施されるため「特定臨床研究」となっている研究は、仮に保険未加入であっても医薬品副作用被害救済制度を利用できる可能性がある。他方、適応外の医薬品等を使用している研究で「通常の診療範囲」とするものがあり、保険未加入の理由として適切かどうか疑問が残った。
【結論】今回の調査において、保険未加入又は賠償責任のみの保険に加入している研究は全体の45%を占めた。一部、適切で妥当な理由の記載がない研究もあったが、医療の提供のみで行うことができる研究の範疇を示唆する情報を得ることができた。