【目的】日本で承認された新薬のヒト初回投与試験における開始用量の実態を把握し,問題点や改善の可能性を考察することを目的とし,無毒性量(NOAEL)またはクリアランス(CL)に基づいた用量設定法を用いて比較検討を行った.
【方法】2009年度から2018年度に承認された新薬のうち新有効成分含有医薬品を研究対象とした.まず,反復投与毒性試験のNOAELを基に,体表面積を指標としたヒト等価用量(HED: human equivalent dose)を算出し,次いで,これとヒト初回投与量(FHD)との比であるFHD index(HED/FHD)を算出した.また,動物の薬物動態試験の結果からCLを抽出または算出し,allometric equation (CL=a(W)^b)を使用してヒトでのCLを予測した上で,CL予測値に反復投与毒性試験のNOAELにおけるAUCを乗じてHEDを算出した.実際にヒトで測定されたCLの値を使用し,実測値に基づくHEDの算出も行った.そして,NOAELおよびCLの両手法で算出されたHEDについて,承認用量(APD)との比であるAPD index(HED/APD)を算出した.なお,FHD設定の方法が低分子化合物と異なる抗がん剤や生物学的製剤,体内診断薬や配合剤等は研究対象から除外した.
【結果・考察】対象薬剤は86剤であった.NOAELを用いた用量設定方法において,FHD index(=安全係数)の中央値は72.1[15.3-333.3](中央値[四分位範囲])であり,APD indexの中央値は3.81[0.82-18.7]であった.FHD indexとAPD indexの間に大きな乖離がみられたことから,より適切な安全係数を適用することで,被験者の安全を確保しながらも,より効率的に医薬品開発を進めることができる可能性が考えられた.両手法で算出されたAPD indexは,いずれも多くの薬剤(54剤)において10を下回り,このことから安全係数10を適用することで算出されるFHDは,承認用量よりも低用量となった.このことから多くの薬剤において,FDAガイダンスで推奨される安全係数10を適用することで,被験者の安全を十分に確保出来ることが確認された.加えて,類薬の情報等を加味することで,迅速な臨床開発を進めることが出来ると考えられる.
【結論】今後,より適切な安全係数,用量設定方法を適用するための技術や手法の発展によって,被験者の安全を損なうことなく,有効で安全な医薬品が患者により早く届けられるようになることが期待される.