これまでの医薬品開発における臨床薬理の役割は、低分子医薬品や抗体医薬の開発において確立されてきた。近年、核酸医薬、細胞治療、遺伝子治療など、様々な新規の創薬基盤技術を活用した医薬品が開発・承認され、低分子医薬品や抗体医薬では治療できなかった疾患に対して効果を発揮している。低分子医薬品、抗体医薬を従来型モダリティ、核酸医薬、細胞治療、遺伝子治療を新規モダリティと定義すると、従来型モダリティでは当たり前だった薬物濃度をベースにした非臨床から臨床へのトランスレーション、及び用法用量の最適化という臨床薬理の主たる方法論が、新規モダリティでは通用しない可能性が想定される。内因性・外因性要因が医薬品のリスク・ベネフィットバランスに及ぼす影響の評価の一環として従来型モダリティで実施されていた臨床薬理的評価(腎・肝障害患者対象試験、thorough QT試験、薬物相互作用試験、薬物動態の民族差の評価など)を実施しなくなることも想定され、製薬企業の臨床薬理担当者が行うべき業務は転換期を迎えている。定量的に医薬品を評価する専門家としての存在意義を持っていた臨床薬理担当者は、新規モダリティの医薬品開発にどのように関わって行くべきか真剣に考え、これまでの業務でベースとしてきた薬物濃度を代替するバイオマーカーなどの指標を選択し、新たなツールによる医薬品開発への貢献を見つけていく必要がある。
日本製薬工業協会臨床評価部会臨床薬理タスクフォースでは、2020年12月時点で日米欧で承認された全身性作用の新規モダリティ医薬品(核酸医薬、細胞治療、遺伝子治療)について、以下の項目に関する調査を行っており、調査結果を当日発表する。
 - 用法用量の設定方法
 - バイオマーカー
 - バイオアナリシス
 - モデリング&シミュレーション
 - その他の臨床薬理的評価
調査結果を踏まえ、今後の新規モダリティ医薬品開発における臨床薬理担当者の貢献の方向性について議論したい。