肝OATP1Bは、多くのアニオン性薬物の肝取り込みを担う。近年、薬物相互作用(DDI)のリスク評価の観点で、OATP1B内在性基質が注目されている。臨床開発の初期に行われる医薬品候補化合物の用量漸増試験等において、これらはDDI予測のためのバイオマーカーとなり得る。
我々は、OATP1B内在性基質の一つであるコプロポルフィリンI(CP-I)に着目し、生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いてDDIを定量的に予測する方法論の開発に取り組んできた。自主臨床試験1) において、OATP1B阻害薬のリファンピシン(RIF)300, 600 mgを経口投与した際のCP-I血中濃度推移の変化を説明可能なPBPKモデルを構築した。
非線形最小二乗法に基づいたフィッティングにより、OATP1Bのin vivo阻害定数 (Ki,u,OATP1B) を含む3種類の未知パラメータが推定された。Ki,u,OATP1Bは約0.1 μMとなったが、in vitroで基質依存性が報告されていたことから2) in vitro阻害定数の比(スタチン vs. CP-I)を用いてin vivo阻害定数を補正し、自主臨床試験においてカセットドーズで投与されたOATPプローブ薬(スタチン)の血中濃度推移を予測することを試みた。結果として、in vitroにおける阻害定数の比を考慮しない場合に比べて、血中濃度推移およびAUCRを良好に再現できた3)
続いて、パラメータが一意に定まらないことを仮定し、複数のパラメータセットを同時に得ることができるクラスターガウスニュートン法 (CGNM) 4) を用いた解析により、9種類の未知パラメータを推定した。CGNM上で千個のパラメータセットの初期値を発生させたのち、各々について最適化計算し、血中濃度を良好に再現するものを統計学的手法により数百個選択した。推定したパラメータのうち、Ki,u,OATP1B、CP-Iの肝固有クリアランスおよび生合成速度のみが狭い範囲で得られた上、既報3) で得られた値とも近かったことから、CP-IとRIFとの相互作用を説明する上で重要なパラメータと考えられた。
本研究をもとに、CP-I血中濃度推移のPBPKモデル解析によりDDIのリスクを定量的に予測する方法論を提唱する。今後、必要性の高いDDI試験の計画や候補化合物の選択等に活用可能と考えられる。
1) Takehara I et al. Pharm Res 2018; 2) Izumi S et al. Drug Metab Dispos 2015; 3) Yoshikado T et al. CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol 2018; 4) Aoki Y et al. Optim Eng 2020