バイオマーカーを利用することにより医薬品のベネフィット・リスク特性の改善につながる可能性がある。医薬品の投与対象患者の特定、用量の最適化、薬剤誘発性臓器障害の検出、薬物相互作用の検討等、医薬品の開発段階から製造販売後のライフサイクル全般にわたり様々な目的でバイオマーカーは利用されている。また近年の臨床開発では、希少疾病、小児、腎機能障害等の特定の背景を有する患者集団といった臨床試験の実施可能性が低い集団において、母集団薬物動態解析や曝露-反応解析等のモデル解析の利用が普及しており [1]、承認申請時に提出する臨床試験データの一部を代用したり、開発中に実施される臨床試験成績のみでは説明に限界が生じる集団における医薬品の適正使用のための補完的な情報を入手したりすることが期待されている。こうしたモデルアプローチにおいて、医薬品の薬物動態プロファイルを検討するための基本的な情報源である血中薬物濃度データも、従来から用いられてきた古典的なバイオマーカーである。医薬品医療機器総合機構では医薬品評価におけるバイオマーカーの利用を促進するために、関係する行政指針の作成、ファーマコゲノミクス・バイオマーカー相談において適格性確認した安全性バイオマーカーの相談結果の公表等に取り組んでいる。本発表では、医薬品規制調和国際会議(ICH)において調和ガイドラインの作成が進む薬物相互作用に関する専門家作業部会(M12)での活動状況といった最新の取組みについても紹介し [2]、医薬品評価におけるバイオマーカーの利用を更に促進するための今後の展望を医薬品規制当局の立場から考えたい。
[1] CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 2020; 9: 550-552.
[2] ICH M12 Drug Interaction Studies, https://www.ich.org/page/multidisciplinary-guidelines