個別化医療の指標となるバイオマーカーはPharmacokinetics(PK)もしくはPharmacodynamics(PD)における影響因子といえる。分子標的治療薬や抗体製剤においては、その標的すなわちPD影響因子に対するproof of conceptに基づき開発が進められ、臨床ではコンパニオン診断検査等により標的の有無が事前に評価されて投与患者が選択されるといった個別化医療が実践されている。
しかしながら、実際の臨床においてはコンパニオン診断検査等により選択された患者においても有効性が認められなかったり、もしくは有効性は認められたものの重篤な副作用により投与が継続できないことがあり、この要因としてPKの個体間変動が挙げられる。すなわち血中薬物濃度が低すぎて治療域に到達しない、もしくは高すぎて中毒域に達している場合には、期待する治療効果を得ることができない。
医薬品開発のプロセスにおいては、薬物の代謝酵素がin vitroにて同定され、また治験のデータに基づき薬物曝露量と有効性および毒性の相関性の有無が評価されている。しかしながら、代謝酵素の遺伝子多型をはじめPKに影響を及ぼす因子に基づく薬物曝露量の個体間変動に対する用量調節については、腎機能や肝機能などの一部の指標を除いてはほとんど提示されていない。とは言え、PK影響因子に基づく薬物曝露量の個体間変動には複数の要因が関与していることが多いため、PK影響因子に基づく個別化投与に関する情報を開発時データから提供することは容易なことではない。このような状況を踏まえると、用量の個別化においては、承認された用法・用量投与時の血中薬物濃度を測定し、その結果に基づいて用量調節を行う治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring: TDM)が有用である。しかし、その実践に向けては、医薬品開発時に「有効域」と「有効域を満たさない患者の割合」に関する情報が提示できるよう治験データの解析が行われ、有効域が明確で、かつ有効域を満たさない患者の割合が大きい薬剤においては、承認申請時にTDMについても併せて準備が進められる必要がある。本発表では、イマチニブや5-FU注、および我々が実施したCYP2D6遺伝子型に基づくタモキシフェンの個別化投与確立を目指したランダム化比較試験(TARGET-1 study)の結果などを提示しながら、臨床現場の視点に基づく提案を行いたい。