私は、医学生という立場から、医療系学生を集めて患者さんの語りを聴くという活動をしています。はじめたきっかけは、あるがん患者さんの言葉です。2020年の6月にその方は亡くなったのですが、その年の2月に最後にお話しする機会があり、「医療者との信頼関係が大切」というメッセージをもらいました。
その方が亡くなった後、自分でその言葉を反芻しました。医者、もしくは医学生として知識を身につけることは当然ですが、それだけではなく、患者とコミュニケーションをとり信頼関係を築くこと、そのために腰を据えて患者の語りに耳を傾けることが重要なのではないかと考え、この活動を始めました。2020年6月から1ヶ月に1度、遠隔コミュニケーションツールを用いて、希少疾患やがんの患者に病の経験を語ってもらい、参加学生からの質問にもお答えいただいています。2021年9月現在で、15回をかぞえるまでになりました。
これまで会で語っていただいたのは、ステージ4のがん患者が6名、ステージ1~3のがん患者が3名、難病の患者が5名、精神疾患の患者が1名です。聴き手の参加は毎回10~20人程度で、多様な学年・学科の学生を含めのべ200名以上となります。2021年9月は海外の患者さんを招き英語で行いました。今後は海外の患者も増やすことを考えています。
活動を通して、患者さんから紡ぎ出される言葉こそ、最も重きを置いて学ぶべきものなのではないかと感じています。学校では様々な病気を勉強します。病理から治療法とその副作用まで多岐に渡ります。しかし、それは病という一点に焦点を当てたもので、患者さんの背景や病以外で抱えている問題を考える機会はあまりありません。もちろん、教科書的な知識も非常に重要なのですが、それに合わせて病のリアル、例えば病気の痛み、薬や治療の辛さ、病気によって変化してしまった環境など、患者の語りから学ぶことは、今後の医療人として非常に重要であると思っています。
医療現場や医学教育において、コミュニケーション力の必要性が重要視されて久しいですが、まずは患者の語りに耳を傾けて学ぶことが、「患者にとっての医療」に重要なのではと考えています。
本シンポジウムに、医学生という立場で参加し、様々な方々の視点から「患者にとっての医療」のあり方について皆様と共に考える機会にできればと考えています。