2020年1月にWHOが新型コロナウイルスに対して「世界的な緊急事態」を宣言した以降、現在まで続くコロナ禍により、医療機関にはそれ以前の役割に加え、国民の命を守る砦としての役割をより一層重視することが求められてきた。国立がん研究センター中央病院(以下、当院という)も、がん医療の専門医療機関として、「社会と共同して、全ての国民に最適な医療を提供する」という理念のもと、がん診療・研究のリーディング・ホスピタルとしての役割を果たすべく職員一丸となって取り組んできたが、国や東京都の要請に基づき特定機能病院としてCOVID-19専用病床の設置の判断を下し感染症対策に協力を行うこととなった。
特に、COVID-19専用病床の運用と通常の医療提供体制を維持するための検討と並行して、当院で実施中のおよそ450件の治験やその他の臨床研究の継続の可否についても様々な検討を行った。当院が実施している治験等はアンメット・メディカル・ニーズが高い領域でもあり被験者の多くが治療選択肢の一つとして研究参加をとらえており、国立研究開発法人として、また臨床研究中核病院として、治験等を継続するということはがん医療の提供を継続することと同義であった。昨年4月早々には、研究担当副院長より「緊急事態宣言下においても治験等は継続する」ことが宣言され、臨床研究コーディネーター(CRC)室、治験事務局業務を担う治験事務室一丸となり安全な治験の継続に取り組んできた。
この1年半の間、「治験等を継続する!」という宣言のもと常に考えてきたことは、被験者の安全であり、適切な治験の実施による信頼性の確保である。そのために、コロナ禍以前に行ってきた業務・作業の一つ一つの意味、その必要性を今一度判断することを日々繰り返してきた。明日仲間が感染し戦力ダウンしたとしても、「真に必要とされることは何なのか」、そのために臨床試験のデータを創出する医療機関の立場として「やるべきことをやり、その判断を常に説明できるようにする」ことは、平常時より粛々と行うべきことではあるが、特にCOVID-19感染拡大を機に得られた学びであったと言える。
本シンポジウムでは、「治験等を継続する!」ためにとってきた当院の対応の一端を紹介する。