2020年3月頃より医薬品開発へのCOVID-19特別対応が本格的に始まり、弊社でもGlobalでSWATチームが構成された。ほぼ未経験のパンデミック対応を手探りで進める中で開発計画への影響を最小限にしたい思いもあり、医療機関の動き、個々の治験責任医師の考え方、他社動向、患者さんや世の中一般の動きを確認しつつ対応を進めた。そして、各治験の特性に基づきGlobalが延期・中断・継続の判断をし、各国はその判断をLocalの状況に合わせて反映させた。結果として日本での治験の遅れは海外と比べて小さかったものの、治験実施のプロセスに様々な課題や改善の余地を見出すこととなった。治験の実施には依頼者および施設の間での連携が重要である。コロナ以前は直接会って関係を構築しながら連携してきたが、コロナにより状況が一変し、治験の施設選定、IRBサポート、契約、施設立上げ、モニタリング、SDV、治験薬管理、など全てをリモートで進めねばならなくなった。また、患者さんの来院不安への対応として来院しなくても安全性を確保しつつ治験が継続できるように、遠隔医療による観察・評価、治験薬配送にも工夫が求められた。更に、人流削減のための在宅勤務推奨下では、紙文書・捺印処理、郵便物処理も工夫が求められ、文書電子化の重要性を実感することとなった。更に、COVID-19による制約は「本当にこの作業は必要なのか、この業務の意味は何か」と改めて問い直す機会になった。「本当にSDVは必要なのか」「SDVをしなくても臨床データの信頼性を保証することはできるか」「施設への訪問は何のためか」という議論も起き、以前から製薬業界で取り組んでいるRisk Based Approachにも再度立ち返った。リモートプロセス、遠隔医療、文書の電子化、来院が難しい中での被験者の安全性確保、Risk Basedな治験の信頼性保証、等の重要性には気づいたものの、具体的なプロセス変革はまだこれからである。パンデミック下でも治験を継続してきた経験に基づき世界的にこの議論は継続され、少しずつ変化が起き始めている。日本でもこの流れは止めずに医薬品開発基盤を進化させ開発効率の向上につなげることが重要と考えられる。このような変革は簡単ではない。人々の意識改革、プロセス変更は大きなエネルギーが必要である。必要な人材、資金の調達も現実的な課題となる。それでも将来のために産官学の関係者が議論し、一歩ずつでも前進することの価値は大きい。