小児に使用される医薬品のうち、添付文書に小児の用法・用量の記載がある製品はまだ多くはなく、小児用の製剤が用意されている薬剤はさらに少ない。小児用製剤がなければ成人用の錠剤の粉砕や脱カプセルで調剤され,その味は大人が知りえない酷い味であることも多い。また小児薬であっても子どもにとって服用しにくい製品も存在する.小児にとって薬の味や飲みやすさは、服薬できるかどうかに関わる重要な問題であるにもかかわらず、世界中で同様の状況である.
これらの問題を解決するため欧州では2007年から、European Paediatric Formulation Initiative (EuPFI)が設立され、大学、大手製薬企業の他、医薬品添加物国際協議会などの関連団体、Bill & Melinda Gates Foundationやファイザー社などのスポンサー、さらには、欧州医薬品庁(European Medicines Agency, EMA)をオブザーバーに加えて活発に活動している。EuPFIは、主に次の5点にフォーカスした小児製剤のための研究・情報交換を行っている。(1)年齢に適した製剤設計、(2)薬剤の味の評価方法と苦みマスキング法、(3)投与デバイス、(4)添加剤の安全性、(5)小児の薬物動態、食品との相互作用、調剤の安全性。
日本においても小児製剤を迅速に開発するため、EuPFIなど世界の先進的な動きと連携してより効率的な開発を行っていく必要がある。そこでアカデミアと企業の製剤研究者の有志が集まり、2020年度より公益社団法人日本薬剤学会に「小児製剤フォーカスグループ」を創設し、国内の小児製剤に関する現状と課題の整理ならびに技術情報の発信を行っている。参加している研究者は100名を超え、AMED「小児医薬品の早期実用化に資するレギュラトリーサイエンス研究」、小児薬物療法研究会およびチャイルドライフスペシャリスト協会と協同して、まずは国内の小児製剤に対するアンメットニーズを取りまとめているところである。本年9月に開催された第13回EuPFIカンファレンス においては、インドおよびタイと共同でワークショップを開催し、アジアの小児製剤の現状と課題を共有した。今後も国内の関係者と共にグローバルに連携し、小児製剤の効率的な開発を図っていく計画である。