医薬品の開発のための臨床試験では、当該地域の患者における効果と安全性の確認が重要であるが、必要とされる症例数は増加しており、ひとつの地域のみでの開発は非効率的であり、多くの患者へ迅速に新規医薬品を提供するためには国際共同試験が必須となっている。国際共同試験における留意点について記したICH-E17ガイドラインでは、民族差を考慮した上での試験計画に加え、複数の地域を統合して解析するpooled regionの考え方も示されており、アジアにおける国際共同試験への期待は高まっている。実際に試験計画を作成するにあたって、参加する国・地域における臨床試験の環境が重要であるが、韓国、中国、台湾等の東アジア地域については比較的状況が知られているが、東南アジアの国々では臨床試験の体制整備が不十分であった歴史があり、具体的な調査の数が少なく、共同試験を行う可能性について検討するための情報が不足している。現在我々は、厚生労働行政推進調査事業「東南アジア地域で国際共同治験を計画する際の留意事項に関する研究」班のプロジェクトとして東南アジアの各国における医療環境、臨床試験の実施状況、試験の種類、体制の整備状況に加え、主な疾患の疫学について公表資料と現地での情報収集による調査を行っている。本講演では、東アジアにおける臨床試験環境のアップデートと東南アジア諸国のうちマレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムの四ヶ国における臨床試験にかかわる背景情報について情報を共有することとする。本研究は継続中であり、対象となる地域をさらに拡大していく予定である。現時点までに得られた情報からは、国民の健康状況、疾患の疫学・重症度、医療保険制度などを踏まえ、適切な責任医師と医療機関を選択することにより、国際共同試験は可能である領域があり得ると考えられる。また、これまで、東アジアで行われた国際共同試験でとってきた標準化へ向けた手順はこの地域でも有効であると考えられ、東南アジア諸国を含めた国際共同開発は有用な戦略であろうと思われる。