アデュカヌマブ(Adu)は凝集型Aβを選択的に標的とするヒトモノクローナル抗体である。EMERGEとENGAGEは、同一デザインの、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、国際共同第3相試験であり、50~85歳の早期アルツハイマー病(AD)患者におけるAduの有効性と安全性を評価した。これらの試験には、アミロイド病理が確認された早期AD(軽度認知障害又は軽度認知症)患者が組み入れられた。参加者は、高用量Adu、低用量Adu、又はプラセボのいずれかに1:1:1で無作為に割付け、4週毎に18ヵ月間治験薬が静脈内投与された。アミロイド関連画像異常(ARIA)に対するリスク最小化策として、用量漸増、定期的な脳MRIモニタリング、及び所見に応じた投与の延期/中止を実施した。主要評価項目は、78週時のCDR-SBのベースラインからの変化量であった。副次評価項目は、78週時のMMSE、ADAS-Cog 13、及びADCS-ADL-MCIのベースラインからの変化量であった。NPI-10は三次有効性評価項目であった。
EMERGEでは、プラセボと比較して、高用量投与により、主要評価項目及び副次評価項目の臨床的悪化が統計学的有意に抑制された。ENGAGEは主要評価項目を達成しなかった。事後解析により、ENGAGEにおける低曝露量が、高用量群における両試験間の結果の不一致の原因と示唆された。各試験において、Aduは脳内Aβ病理に対して統計学的有意かつ用量依存的な減少効果を示した。ADと神経変性に特異的な下流バイオマーカー(tau PET、CSF p-tau、CSF t-tau)への効果は、臨床所見を支持する結果であった。安全性プロファイルは両試験で一貫していた。10 mg/kg併合群でARIA-E(浮腫)は最も高頻度に認められた有害事象(35.2%)であり、 ApoEε4保有者では非保有者と比較して発現率が高かった(43.0% vs 20.3%)。ARIA-Eは概して一過性で無症状であった(74.0%)。ARIA-H(出血)の10 mg/kg群における発現率は28.3%であった。ARIA-H微小出血及び限局性脳表ヘモジデリン沈着は典型的には無症候性であり、それらの頻度はARIA-Eが認められた参加者(各40.3%、38.7%)の方が認められなかった参加者(各7.6%、1.6%)よりも高かった。ARIAによる死亡に至った事象は認められなかった。
2021年6月、FDAはAduを投与した患者で認められたAβプラークの減少に基づき、迅速承認下でADの治療薬としてAduを承認した。
ADのもう一つの病理学的特徴であるtauを標的とした疾患修飾薬の開発も進行中である。