近年、高額薬剤等の新規医療技術が相次いで導入されており、多くの患者が恩恵を受ける一方で、医療費高騰の要因として問題視されてきている。薬剤などの医療技術の費用対効果を評価する分析手法を「医療経済評価」や「費用対効果評価」と呼び、80年代頃から研究が行われていた。また、80年代後半頃から高額薬剤等の新規医療技術の臨床的エビデンスに加え経済的エビデンスすなわち費用対効果の評価を行うための公的な医療技術評価機関(Health Technology Assessment Agencies)が各国で相次いで創設された。これらの機関では、費用対効果の結果を踏まえて各種医療技術の公的医療における導入の可否に関する判断や、適正な価格設定に向けた提言を行っている。
 たとえば英国でも1999年に国立保健医療評価院(National Institute for Health and Care Excellence, NICE)が創設され、これまで多くの診療ガイダンスを発行してきた。臨床試験により有効性が確認された薬剤でも、コストが高く費用対効果が悪ければその使用を推奨しないとの判断が下されることもあり、大きな社会問題を引き起こした。 
 日本でも中央社会保険医療協議会(中医協)において、2010年秋頃から新規薬剤や医療機器の価格設定のあり方に関する議論に際し「日本版NICE」という言葉がたびたび登場するようになり、厚生労働省は中医協に費用対効果評価専門部会を2012年に設置し、保険償還価格の設定に際して費用対効果を勘案した評価の導入を検討してきた。そして2016年4月より既収載医薬品並びに医療機器の価格改訂に際して費用対効果評価の試行的導入が開始し、2019年4月には本格導入(制度化)が開始している。 
 今回は、費用対効果評価の基本的な考え方と、諸外国における認知症薬の評価と現状と課題について述べる。