がん遺伝子パネル検査では腫瘍の体細胞病的バリアントの検出と同時に生殖細胞系列病的バリアントが検出される場合がある。がん遺伝子パネル検査実施例のおおよそ1割の例で生殖細胞系列病的バリアントが同定されるとの報告もあり、そのなかでも最も高頻度に同定されるのが、遺伝性乳癌卵巣癌(Hereditary breast and ovarian cancer : HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1またはBRCA2 (BRCA1/2)である。またコンパニオン診断(CDx)として検出する遺伝子が遺伝性腫瘍の原因遺伝子である場合、検査を契機として遺伝性腫瘍家系が同定されることがある。2018年にはBRCA1/2遺伝子検査(SRL)が、CDxとして保険収載された。本検査は治療の最適化を目的としているが、同時にHBOC家系の同定につながる。またがん組織を用いるPARP阻害薬のCDxとしてMyriad myChoice診断システムが卵巣癌に対して適応された。腫瘍組織にBRCA1/2 病的バリアントを認めるか、あるいはGIS高値となった場合にHRD陽性と判定されPARP阻害薬ニラパリブの適応となる。さらに局所進行または転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌におけるペムブロリズマブ適応判定のためにMSI検査キット(FALCO)に用いられている。MSI-Highの場合、Lynch症候群関連腫瘍である事も念頭におく。今後がんゲノム医療やCDxが実地臨床に広く導入されるにともない、遺伝性疾患家系が同定されることがあり、遺伝子診療部門とがん診療部門の連携がさらに重要となる。我が国では経済財政運営と改革の基本方針2019 (骨太方針2019:閣議決定)を踏まえ、2019年10月23日の第1回ゲノム医療協議会において、発がんの原因遺伝子特定に向けた全ゲノム解析を行うことが示され、今後は全ゲノム解析時代を見据えてがんも難病も取り扱う対応が必要となる。しかしながら我が国の遺伝診療に対する保険収載は未整備な部分が多く、例えば遺伝性腫瘍の遺伝学的検査に対する保険収載となっている項目は2021年3月時点でRETRBMEM1BRCA1BRCA2 のみである。がんゲノム医療を推進するためには遺伝子診療における切れ目ない保険適応が求められる。