ファーマコゲノミクス(薬理遺伝学)が、臨床現場で注目を浴びた1つの機会は、大腸がんを中心にしたUGT1A1遺伝学的検査が保険適用になった 2009 年である。薬理遺伝学的検査で初めて保険適用になったUGT1A1遺伝学的検査の運用を円滑にするために、関連学会においても「ファーマコゲノミクスの運用指針」が策定され、単一遺伝子病とは違う扱いとして位置づけられた、この指針により医療機関内、また薬剤に関係する医療職間で遺伝学的検査や遺伝カウンセリング・遺伝医療についても知っていただく機会となり、本学会でもシンポジウム等で大きく取り上げていただいた。その後、分子標的薬に伴うコンパニオン診断となる遺伝子関連検査も保険適用となり、その一つとして遺伝性腫瘍であるHBOC (遺伝性乳がん卵巣がん症候群)の原因となるBRCA1/2遺伝学的検査がコンパニオン診断として2018年より乳がん、卵巣がんを対象に、また2021年には膵臓がん、前立腺がんが保険適用になり、疾患特性からも遺伝カウンセリング・遺伝医療が関わる機会となっている。また、2019年には分子標的薬の対象遺伝子群を網羅的に解析するがん遺伝子パネル検査が保険適用になりゲノム医療として扱われ、二次的所見も含めエキスパートパネルでは遺伝カウンセリング・遺伝医療との繋がりも求められている。
この10年間で、薬剤と遺伝子、また薬剤と遺伝カウンセリング・遺伝医療との関わりが変わってきている印象を持つ方もいるかもしれない。がんゲノム医療においては、それぞれの医療機関でがん診療として活躍しているいるメンバーに加えて、遺伝子医療部門(遺伝診療外来等)に属する臨床遺伝専門職である認定遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーとの連携や遺伝診療外来に橋渡しする人材養成も含めチーム医療として作り上げていただくことが求められている。今回の発表では、これまでの薬理遺伝学の推移も含めて、医療の中でゲノム情報・遺伝情報の活用の重要性を改めて整理、共有し、がんゲノム医療におけるチーム連携の必要性について皆さんと検討する機会になれば幸いである。