【背景】岡山大学病院は全国に12施設ある、がんゲノム医療中核拠点病院の1つであり中国四国地方の関連病院と密な連携が行われている。がん遺伝子パネル検査の解析結果から各診療科の医師、薬剤師、バイオインフォマティシャン、認定遺伝カウンセラーなど多職種によるエキスパートパネル(以下:EP)で議論がなされ、考慮可能な臨床試験の検討がなされている。
がんの増殖や生存には様々なsignal pathwayが関与している。例えば代表的なものとしてMAPK signal pathway、PI3K-AKT-mTOR signal pathwayが知られているが、エピジェネティクス機構や細胞周期チェックポイント機構など多岐にわたり非常に複雑である。そのため解析結果から挙げられた遺伝子病的バリアント(以下:病的バリアント)が、signal pathwayへどのように影響するのか理解する必要がある。
EP症例において考慮可能な臨床試験が複数挙げられる症例も中には存在する。そこで薬剤師が各臨床試験における薬剤の薬理学的作用機序から優先度を決め主治医に提案した事例を報告する。
【症例】KRAS G12C を認めているNSCLC症例に対しKRAS G12C 阻害剤、RAF 阻害剤、SHP2 阻害剤の固形がんを対象とした臨床試験が候補として挙げられた。KRAS G12C に対する保険適応薬が存在しないためEPから臨床試験として考慮する前に、主治医から各臨床試験における優先度を教えてほしいとの依頼があった。
【結果】いずれの臨床試験においても募集中であることを各調整事務局に確認し、症例の背景情報から臨床試験検索サイトで確認可能な適格基準に問題ないことを確認した。そこで各薬剤における作用機序を論文より確認し、本症例ではKRAS G12C を認めていることから、選択的に阻害するKRAS G12C 阻害剤をまず考慮し、次にRAF 阻害剤、SHP2 阻害剤の順で提案した。
【課題】治験や特定臨床研究では、機密情報が多く必要最小限しか知ることが出来ない。また新規薬剤の場合、治験依頼者の戦略的な面から作用機序などを公開不可としているものも存在する。さらに適格基準、実施施設の場所や実施状況の問題がある。他にも解析結果から複数の病的バリアントが見つかることでbypass pathwayなどにより薬剤抵抗性を示す可能性もある。EPで最終結果を提示する際には、それらを考慮したうえで既に治験や臨床研究で論文化されているものや有効性を示すCase report等を参照し各診療科医師と共に総合的に判断する必要がある。