「研究倫理コンサルタント」とは、臨床研究をはじめとする医学系研究に関する様々な倫理的疑問や問題に対して、研究倫理学上の原理・倫理原則、考え方、研究規制・制度等に則りながら、問題分析を行い、倫理的に望ましい研究のあり方や研究方法等について専門的見地からの助言を与える「研究倫理コンサルテーション・サービス」を担う専門人材である。その扱う研究領域は、人試料・情報を用いた、基礎医学を含めた様々な医学系研究・質的研究をはじめ、介入試験・臨床試験や先進医療等の革新的医療技術の研究開発に伴う倫理的・法的・社会的問題(ELSI)及び政策課題、並びに、企業等との共同にあたっての利益相反問題、出版倫理問題にも係わる研究公正や情報倫理といった、およそ人を扱う医学系研究に関連するあらゆる事項を網羅するような幅広い領域にまで及ぶ。
こうした様々な倫理的問題について助言を与えるため、研究倫理コンサルタントには、これらの問題や種々の研究規制・手続き等に関連する豊富な知識に加えて、倫理的な問題分析力と論理的な思考力などが求められる。しかし、こうした能力を備えた研究倫理コンサルタントを育成する「場」は、現状ではほぼ皆無であり、唯一、AMED研究公正高度化モデル開発支援事業(松井班)の中で試みられているに過ぎない。また、仮に「研究倫理コンサルタント」が育成されたとしても、育成された人材を「認定」し、その質を一定保証する仕組みは未だなく、更には、そうした専門人材のキャリア・パスも見えないのが現状である。
日本臨床薬理学会では、2012年4月に設置された学術委員会研究倫理小委員会(現・研究倫理委員会)に期待される活動として、「研究倫理の実務を担う専門職の養成、資格付与」が挙げられたが、その後長らく、学会内での目立った具体的検討の動きは生まれなかった。そうした中、奇しくも、2017年(平成29年)2月に一部変更された「医療分野研究開発推進計画」において、臨床研究に関する専門人材の1つとして「研究倫理コンサルタント(相談員)」の育成・確保及び研究拠点への複数配置の必要性が謳われたのを契機に、同年7月の研究倫理委員会にて「研究倫理コンサルタント」学会認定資格化の議論に向けた提案がなされたが、未だ具体的検討までには至っていない。
本演題では、国内外における「研究倫理コンサルタント」育成等の現状について紹介する。