国立がん研究センターでは、2015年4月に研究支援センターに生命倫理支援室を設置し、以降、同部署を中心に、センターにおける研究倫理コンサルテーション体制整備を進めてきた。設置当時、同部署にはセンターで初めてとなる人文・社会科学系領域出身の室長を配置し、また、その後の生命倫理部への昇格改組の際には、医事法や生命倫理の専門家を加えたより手厚い体制を整え、現在に至っている。
当センターは、2015年に中央病院及び東病院がそれぞれ医療法に基づく臨床研究中核病院の承認を得たが、研究倫理コンサルテーション業務を担う生命倫理部を設けるに至った背景の一つには、2つの臨床研究中核病院を擁する法人として、国際水準の医師主導治験等の推進においてわが国の中心的役割を担うことが期待されていたこと及び研究倫理をはじめとする生命倫理領域の問題(ELSI:倫理的・法的・社会的課題)が病院のみならずセンター内各部局においても共通の問題として認識されていたことなどが挙げられる。特に先進的な研究開発にあたっては、それぞれの研究に固有の研究倫理上の課題やELSIについて予め十分に検討し、被験者保護と研究公正を充実させたうえで進めていくことが必要となる。しかし、国内外の研究に係わる規制が複雑かつ高度化していく中で、そうした研究倫理・ELSI上の課題や問題点を医療者や医学研究者のみで解決・対応していくことは困難となっている。そのため、生命倫理部のように、倫理的に正しく公正な医学研究の推進を支援する専門性の高い部署の整備は、研究開発を進めるいずれの医療機関にとっても、研究インフラ整備の一環として今後益々重要になっていくとともに、欧米に遅れることなく臨床研究の推進をめざすわが国全体にとっても、重要な政策課題の一つとなっている。
厚生科学審議会臨床研究部会では、臨床研究中核病院の人員要件の一つに「研究倫理相談員」を加えることとしたが、本シンポジウムでは、そこでの議論等を踏まえつつ、研究倫理コンサルテーションを担う部署及び個々の研究倫理コンサルタントに対して期待される役割や能力、及び、それら役割や能力の充実にあたって機関側に求められる姿勢や支援体制について話をしてみたい。