医学系研究としての臨床研究は、診療とは区別され、被験者(多くは患者)にとっては本来協力する義務のない事項について、被験者自身の自由意思により同意し研究に参加することにより成立する。従って、臨床研究への参加を決意しようとする被験者に対し、臨床研究を実施する者(臨床研究者)は最大限の被験者保護を提供する誠意が必要である。 臨床研究者にとって、被験者が体験することや体験する可能性のあるリスクとその確率などについて、知り得る限りの範囲で誠実に説明し、またそのリスクが発生した場合の対処について、できる限りの範囲で準備をしておくことが責務である。「被験者保護」とは、この準備と実施のプロセスをより確実にしようとすることであるとも言える。 以上から、研究倫理とは、概ね「被験者保護」を誰が、何について、どのように、客観的にも妥当なやり方で実現していけるかを追求することであると、私は理解している。このような文脈から、臨床研究者にとって研究倫理の理解は、各臨床研究計画ごとにどのように被験者保護を行うかということを決めるためには必須の事項である。すなわち臨床研究者には、研究倫理の理解を通じて、被験者保護を最大限に考慮した、より望ましい臨床研究計画の策定方法に近づこうとする努力が求められるのである。 しかるに、医療や価値観の多様化に伴い臨床研究が複雑化するにつれ、研究倫理の専門家に助言を求めたいという要求は当然である。研究の目的と実施可能性に沿った被験者保護の方法について相談できる専門家は、臨床研究者にとって大きな助けとなる。 また前述の通り、臨床研究倫理審査委員会の承認を得ることだけが研究倫理の理解の目的でないことは明らかである。しかしながら臨床研究者にとって、倫理審査委員会の承認を迅速かつ円滑に得ることが大きな関心事であることもまた事実である。臨床研究支援業務を担当する我々としても、倫理審査を巡る相談対応は業務の相当なウエイトを占めている。相談内容は多様な立場の研究者から多岐に渡る。幸い、国立国際医療研究センター(NCGM)では、2020年より研究倫理の専門家を常勤職員として複数名迎えることができた。この専門家チームを中心に、我々は臨床研究相談の内容を集計分析し一般化することで、臨床研究倫理相談を体系化し教育に活かそうとする試みを始めている。本シンポジウムではその具体的内容についても紹介したい。