医学研究は医療の進歩に必要であり、適切な実施には研究倫理の理解が不可欠である。研究倫理の重要性が増すにつれ、研究者の相談に対応できる「研究倫理コンサルタント」の需要はあるものの、純粋な専門家は少なく、各施設で治験・臨床研究関連人材がその役割を担っていることが多い。相談対応は、社会的/科学的価値、適切な被験者選択、適切なリスク・ベネフィットバランス、インフォームドコンセントなど様々な要素を考慮して個別の研究毎に考える必要がある。また、研究者の「診療」と「研究」との混同への対応、研究デザインへの助言など、単純な関連法規の理解や指針の該当性判断のみでは対応が困難であるが、これらの要求に対応した教育機会は少なく、機会創出が望まれている。
 私は縁あって、2018年度より研究者に妥当な行動選択を助言・推奨できるコンサルタントの養成を目的としたAMED研究公正高度化モデル開発支援事業(松井班)に参加している。まず初級者教育を目的とした研修会に参加し、その後一定の教育の役割を担う中級者講習を受講した。中級者講習は、自身で作成した研究倫理に関する教材を用いて、初級者研修会の受講者への講師役を務める。内容についてはもちろん、教育方法やプレゼンの進め方、講師としての振舞いについてエキスパートの先生方から評価を受け、多くの助言を頂く。初級者講習から中級者講習の過程を経て、研究倫理に関する理解が大変深まったと感じている。参加当初より私は研究者としての活動も並行して行ってきた。研究倫理の理解は、しばしば研究の推進を加速した。両者は、決して相反するものではなく、互いの向上を補完し合うような関係だと思っている。
 現在私は、研究支援を行うコンサルタントの立場を離れ、薬剤部内の研究を管理する立場になった。部内の研究を適切に推進するためにも、研究倫理に対する重要性の認識を強くしている。臨床研究法の施行や指針の改定など、研究倫理に対する一層の理解が求められる昨今、研究を実施する側にもコンサルタントとしての素養は必要だと感じている。当日は、一研究者である臨床薬理学会員としての立場から、適切な研究を推進する研究倫理コンサルタントのあり方について議論したい。