新型コロナウイルスワクチンの国内承認を契機に、報道等では毎日のようにワクチンに関する話題が取り上げられている。その結果、例えば数年前までは「ワクチン有効率70%」といえば「100人にワクチンを打てば70人に効く」と誤解されることが多い状況であったが、現在では、「非接種者が病気になる確率を1とすると、接種者ではその確率が0.3になる、すなわちリスクが70%減ることである」など、正しい知識が至るところで解説されるようになった。一方、このような「臨床的有効性」の評価手法や、各手法に潜在する困難性については、まだまだ理解されていないように感じている。
ワクチンの開発段階、すなわち承認前に実施される臨床試験(治験)は、原則、無作為化比較試験で行われる。第I相~第II相臨床試験では数十人~数百人を対象として、安全性を重点的に評価するが、有効性のサロゲートマーカーとして免疫原性(抗体応答など)も評価する。発症予防効果などの臨床的有効性を直接評価する第III相臨床試験では、通常、数百人~数千人が対象となるが、想定されるワクチン有効率が高くても、アウトカムの発生割合が低ければ、数万人規模の調査が必要になることがある。
承認後の市販後調査では、観察研究の手法によりワクチンの臨床的有効性を評価するが、それぞれに長所・短所がある。例えば、コホート研究は「接種者と非接種者を登録して追跡し、アウトカムの発生状況を比較する」といった非常に分かりやすいデザインであるが、接種・非接種にかかわらず「もれなく等しく」追跡するには多大な労力を要する。大規模保健医療データベースを活用したコホート研究はより少ない労力で実施できるが、接種者と非接種者の特性が著しく異なるなど、特有のバイアスが潜在することに注意が必要である。症例・対照研究の一種であるtest-negative designは、受診行動に起因するバイアスを一定程度制御できる手法であり、ワクチン有効率のモニタリングには向くものの、複数のアウトカムを同時に評価することは難しい。
ワクチンの臨床的有効性評価の手法を理解することは、新型コロナウイルスワクチンに限らず、各種ワクチンの研究結果を適切に解釈することにもつながる。特に市販後調査が抱える課題については、実績が豊富であるインフルエンザワクチンの有効性研究で明らかにされてきた事項が多いため、自身の経験も交えながら紹介したい。