感染症ワクチンの有効性の評価においては,免疫原性(immunogenicity),臨床試験での有効率(efficacy),実社会での有効率(effectiveness)が指標となり得るが,新型コロナウイルスワクチンの評価の考え方(令和2年9月2日PMDAワクチン等審査部)では,原則として臨床試験における発症予防効果を主要評価項目とすべきとの見解が示されている.一方で,海外で発症予防効果を主要評価項目とした大規模な検証的臨床試験が実施される場合には,日本人における免疫原性及び安全性を確認することを目的とした国内臨床試験を実施することで十分な場合がある(新型コロナワクチン審査報告書)とされ,これまでに本邦で特例承認された3種類の新型コロナワクチンでは,免疫原性及び安全性の確認を目的とした国内臨床試験が行われた.さらに,変異株ワクチンの有効性及び安全性評価における考え方が補遺1として示され(令和3年4月5日),既承認のワクチンを改良した変異株ワクチンの有効性については,中和抗体陽転率,及び中和抗体価の幾何平均値を主要評価項目とするとされている.
新型コロナワクチン国内臨床試験における免疫原性の評価では,Sタンパク質特異的抗体価,及びウイルスあるいはシュードウイルスを用いた中和抗体価が測定された.ここで得られる抗体価は用いる測定系に依存する値であるため,一つの臨床試験の中で群間の比較を行うことは可能であるが,異なる測定系で得られた値を比較することはできない.今後,国内で開発される新型コロナワクチンの臨床試験における有効性評価や,既存ワクチンの2回接種後の追加接種の必要性の検討,実社会における各自の免疫状態の調査等において,抗体価の標準化が重要な課題の一つとなる.2020年12月にWHOが最初の新型コロナウイルス抗体国際標準品を策定し,中和活性に関するIU(International Unit),及び結合活性に関するBAU(Binding Antibody Unit)が定められた.今後は,この国際標準品を基準に標準化が図られると考えられるが,普及は十分でなく標準化は緒についたばかりである.本講演では,新型コロナワクチンの有効性評価に関して,特に抗体測定法と標準化の観点から現状と課題について考察するとともに,令和2年度に実施した,抗体検査キットの一斉性能評価試験の結果を紹介する.