外資製薬企業では、FIH試験は通常欧米で実施されることが多い。日本には早期臨床開発に適した施設・基盤があるが、欧米の開発研究者からの認識が低く、十分に活用できていない。世界の患者さんのために、日本が得意な早期臨床開発の分野で貢献できる機会を増やしたいと願っている。
ノバルティスファーマ株式会社でも、FIH試験を含む早期臨床試験を日本で実施したいと考えていたが、会社の最優先課題ではなかった。2020年に予想していなかったCOVID-19のパンデミックにより、アメリカの施設で実施されていた臨床薬理試験がすべて止まってしまっていた時期があった。日本人健康被験者を含むFIH試験の一つがアメリカの施設で2020年2月に開始されたが、COVID-19のため途中で施設が閉じ、試験が完全に止まってしまった。もともと日本人被験者を含む予定だったこともあり、日本の施設を追加する提案をし、デメリットがほとんどないだけではなく、止まっている治験を進めることができるので受け入れられた。プロトコールや治験薬概要書の翻訳、治験届、IRB、皮膚生検のバリデーション等の準備をしている間に、10月にアメリカの施設が再開し、予想外に早く日本人を含む被験者が集まった。日本の施設での健康被験者の参加は惜しいところで間に合わなかったが、この試験には患者パートがあり、日本の施設の治験開始の準備ができたので、日本の施設でも患者を入れることにした。アメリカの施設では、2例の患者がこの治験に参加したが、日本の施設では2021年の4月までに9例の患者が参加した。日本の施設のお陰で、この試験は少なくても約6カ月の期間短縮になったと考えられる。
この試験の実績を基づいてグローバルチームは日本の施設の実力に感心し、この疾患領域の早期臨床開発グループは、日本での治験の実施について理解を深めるためのWorkshopを日本と共同で実施した。理解すればするほど、日本でFIH試験を実施することに前向きになり、むしろ積極的に考慮してくれるようになった。同じ疾患のプロジェクトで、今後FIH試験を実施予定の2つのプロジェクトについて、日本でFIH試験を実施することになった。将来的に目指したいのは、日本が得意とする複数の疾患について、FIH試験からPoC試験の早期臨床開発一式を効率よく日本で実施し、世界中の患者さんによりよい医薬品を早く提供することである。