イーライリリーのFirst In Human(FIH)試験の多くは海外で実施している。一方で、日本にもFIH試験を実施できる体制が整い、かつ経験豊富な臨床薬理施設が存在する。また、日本の強みを活かし、FIH試験を日本で実施した方が開発全体にメリットがあるケースも考えられる。そういった機会損失を防ぐために、早期の開発段階から日本が参画できる体制を構築する必要がある。
日本イーライリリーではFIH試験を日本で実施することの価値を米国本社に提案し、2020年にFIH試験(健康被験者を対象とした試験)を日本の臨床薬理施設で実施する機会を獲得した。実施体制として、チームメンバーの多くは海外の担当者となり、日本の担当者は日本語の書類の作成及び日本の規制当局との対応などを担当した。ただし、被験者の安全性に迅速に対応できるように、また試験全体を管理するという観点から、医学専門家及びスタディーマネージャーについては日本の担当者もチームメンバーとして参画した。
なお、スタディーマネージャーとして海外のメンバーと試験を実施する中で重視したことは、日本側の動きの見える化である。日本特有のルールや施設の状況をできるだけ早く、そして分かりやすく説明することで、海外のチームメンバーが海外で実施する試験と同じ感覚になるように心がけた。
実施結果として、実施計画書固定から約2か月後に初めてのヒトへの投与を達成することができた。このタイムラインは、過去の海外で実施したFIH試験と比較しても早いスピードであり、日本で実施した場合であっても海外と同じようなスピード感で試験の実施可能であることを証明するこができた。また、用量漸増の決定のために治験責任医師及び治験依頼者が参加する会議は、海外の施設と行っている方法と同様に、米国本社の医学専門家も参加し、安全性データについてタイムリーに議論ができた。試験全体を通じて実施計画書の固定からデータベースまで予定通りに実施することができ、今後も日本でFIH試験を実施するための礎となった。
今後もFIH試験を日本で実施することに価値のあるプロジェクトにおいては、機会を逃さないように米国本社、日本の臨床薬理施設と協働できる体制を構築し、早期グローバル開発における日本の貢献度を高めていきたい。