【目的】血液の凝固・線溶能には24時間の日内リズムが存在し、このリズムが心筋梗塞や脳梗塞の発症頻度の日内変動をもたらす。近年開発された活性化凝固第X因子阻害薬エドキサバンの用法は1日1回の経口投与であるが、投与時刻は定められていない。本研究の目的は、凝固・線溶能の日内リズム、および薬物動態を考慮したエドキサバンの最適な投与時刻を明らかにすることである。【方法】エドキサバンの抗凝固作用におよぼす投与時刻の影響を検討するため、8週齢雄性Wistarラットを12時間:12時間の明暗周期下で2週間飼育した後、次の実験A)~C)に供した。実験A) 凝固因子活性の日内変動を検討するため、Zietgeber time (ZT) 0, 4, 8, 12, 16, 20においてラットから採血し、第II, V, およびX凝固因子の活性を測定した。実験B) 投与時刻の違いによる凝固因子活性の阻害効果を比較するため、ZT2、およびZT14において、エドキサバン(10 mg/kg)、またはvehicle(0.5%メチルセルロース)をラットに強制経口投与した後、凝固因子の活性を測定した。実験C) 投与時刻の違いによる血栓形成の阻害効果を比較するため、ZT2、またはZT14において、静脈うっ血血栓症モデルラットに対してエドキサバン(10 mg/kg)、またはvehicleを投与し、血栓量を比較した。【結果・考察】次の三点を明らかにした。1)第X因子、および第II因子活性は、ZT4を頂値、ZT12-16を底値とする日内リズムを示した。これに一致して、ZT4における活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)はZT16に比して12%短く、ZT4ではより凝固能が高いことを示唆した。2)凝固能が高い明期の初めZT2にエドキサバンを投与した群では、vehicle投与群に比してZT4における第X因子、および第II因子活性が有意に阻害された。一方、凝固能が低い暗期の初めZT14にエドキサバンを投与した群ではZT4において有意な阻害効果を認めなかった。3)静脈うっ血血栓症モデルラットにおいて、ZT2にエドキサバンを投与した群ではZT14に投与した群に比してZT4~5.5における血栓形成をより強く抑制した。【結論】エドキサバンの抗凝固効果は投与時刻によって異なり、凝固能が高い時間帯の直前に投与した方が凝固能の低い時間帯の直前に投与するよりも高い効果が得られる可能性が示された。最適な投与時刻の決定は、エドキサバンの抗凝固効果の増大と出血リスクの低減を両立させるために有用であると考えられる。