慢性腎臓病 (Chronic Kidney Disease; CKD)に罹患する人口割合は日本人8人に1人といわれより有用な治療法の開発が望まれている。しかし既存薬の効果は対症的であり、またCKD時には他の二次的疾患を併発することが多く、これらの症状に対する薬物治療も必須な状況である。また近年、CKD時に薬物代謝能が変容し、体内の薬物挙動が変容することが報告されている。特にCKD患者は多種の薬物を服用し病態をコントロールしているケースが多く、これら病態により副作用が起こりやすくなることが問題視されている。これまでに、臨床および基礎研究から肝臓の薬物代謝活性が低下することが示唆されている。しかし肝臓の代謝機能低下機構は不明な点が多い状況であった。 一方、ヒトを初めとする多くの哺乳類には、約24時間周期で生体機能を制御する体内時計が備わっている。体内時計の本体は、時計遺伝子 Clock, Bmal1, Per, Cry が構築する転写/翻訳フィードバックループであり、DBP に代表される時計出力遺伝子を介してさまざまな生体機能の概日リズムを制御している。時計出力遺伝子により制御される分子には、異物の代謝に関わる多くの代謝酵素が含まれている。そのため、薬物の効果や副作用も投薬時刻により変化することが報告されている。そこで我々は、CKDモデルマウスを対象に、分子時計機構を基盤として肝臓の薬物代謝酵素発現低下機構の解明を行った。その結果、腎不全の進展とともに腎臓から分泌されるTGF-βが肝臓の時計遺伝子発現リズムを変容させることで薬物代謝酵素発現低下を引き起こした。またこれら薬物代謝酵素発現量低下がレチノールの蓄積を促進し、腎臓の線維化や炎症を悪化させることを明らかにした。またレチノールの蓄積が、新たな炎症性細胞集団(GPR68陽性単球)を形成して心臓の線維化や炎症に寄与する新たな分子病態機構を発見し、腎障害時の代謝不全が引き起こす新たな病態である多臓器連関機構を解明した。さらに本研究結果を基盤に臨床応用させるため、AMED「創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)」の拠点として九州大学大学院 薬学研究院が展開するグリーンファルマ研究と支援によりGPR68の新規阻害剤を新たに発見している。本シンポジウムでは、概日時計機構を基盤にした慢性腎不全の病態解析と創薬研究を中心に紹介する。