生体には体内時計が存在し、時計遺伝子により制御され、多くの疾患のリスクに関与している。医薬品の添付文書などに服薬時刻が明示され、時間を考慮した製剤、時間制御型DDSや時刻により処方内容を変更した製剤も臨床応用されている。我々は、薬物活性の日周リズムの成因、時計遺伝子の変容機構、生体リズムの操作技術を体内時計の側面から解析し、新規時間治療法の構築を目指している。生体リズム診断の視点から、各種細胞中の時計遺伝子、血中の代謝物質を測定する方法が開発された。また癌細胞の増殖や血管新生、シグナル伝達、免疫、薬物代謝・輸送のリズムを体内時計の分子機構の側面から解析し、投薬タイミングを設定するための生体リズムマーカーを同定した。細胞連関では、癌幹細胞様細胞の細胞数リズムの成因として、非幹細胞からのWNT/β-cateninシグナル伝達リズムによる制御機構を解明し、それを指標にした創薬育薬は、癌幹細胞を標的にした難治性乳癌の新規治療法の開発につながる。臓器連関では、慢性腎臓病モデルマウスを対象に、TGF-β発現亢進が、肝臓の分子時計の発現量を減少させ、代謝不全により過剰に蓄積したレチノールが、分子時計を介して腎臓の線維化および炎症に関与すること、すなわち腎-肝-腎連関における分子時計の役割を明らかにした。またリズミカルに変動する因子を標的とした化合物を同定し、クロノケミカルバイオロジー技術を駆使して新規標的分子と新規機能を発見した。その他の臓器連関に関わる分子時計の役割を明らかにし、アカデミア創薬研究へ展開している。生体リズム障害の視点から、夜間のシフトワーカーは生活リズムが変容するため乳癌のリスクが高まる。また働く時間が昼夜決まっていない交替制勤務者では、仕事の時間が昼間に限られる日勤者に比べて前立腺癌にかかりやすい。高齢者の不眠対策として、生活習慣を見直し、昼間に光を浴びることが望ましい。生体リズムの操作の視点から、光、薬、栄養素、微弱電流により分子時計を調整する技術を開発し、病態に加えて薬効リズムを操作することに成功した。生体リズムを操作することにより積極的な時間治療を展開できる。生体は体内時計の階層構造をうまく利用し、生体のホメオスタシス機構を維持している。生体リズムの乱れが疾患リスクを高め、それを調整することにより治療効果を向上できる点が新たな治療戦略となりうる。