ファーマコメトリクスの活用は医薬品開発のみにとどまらず、臨床においても広がりを見せている。ファーマコメトリクスに基づいた薬物動態モデルによる適切な薬物投与量設定により、患者治療における有効率の向上と副作用発現率の低下が可能であるとされており、実臨床における薬物治療の個別最適化が期待されている。
一方、臨床におけるファーマコメトリクスの有用性については少しずつ認知が広がりつつあるが、「幅広く知られている」というには程遠い状況であり、実際に自らがファーマコメトリクスを実践・活用できる人材の育成は依然として発展途上である。
このような状況において、筆者は海外の医療機関においてresearch fellowとしてファーマコメトリクスに基づく臨床研究のプロジェクトを実施し、また臨床薬剤師として業務をこなす傍らファーマコメトリクスの専門家と共同研究を行ってきた。これまでの研究成果を紹介し、臨床発のファーマコメトリクスに基づく臨床研究が患者治療にどのようなインパクトを与えるのか、その可能性について情報を共有したいと考えている。また自身の経験からは、臨床家のみで質の高いファーマコメトリクス研究を実践することは容易ではないこと、それを実践するためにはそれぞれが専門性の高い知識や経験をもつ臨床家とアカデミアが協働することが非常に重要であると実感している。
本シンポジウムでは臨床家の立場でファーマコメトリクスを実践する上で感じた問題点、アカデミアと臨床家が持つそれぞれの強みなどについて実経験を交えて紹介する。今後の臨床家とアカデミアの協働、さらには臨床におけるファーマコメトリクスの一層の活用を推進する一助となれば幸いである。