臨床開発におけるファーマコメトリクスの利活用については、これまでに多くの事例が報告・蓄積されており、その重要性は疑う余地がないが、今現在も猛威を振るうCOVID-19によるパンデミックに対して、ファーマコメトリクスはどのように貢献しているのだろうか?
これまで、様々な種類のウイルスについて、そのウイルス量の経時推移を表現するモデルとしてViral dynamic modelが広く用いられてきた。このモデルは、主に感染の対象となる細胞(HIVであればCD4陽性リンパ球)、ウイルス、そして感染細胞の相互関係を表現した数理学的モデルである。その適用範囲はインフルエンザやHIV、又は腫瘍溶解ウイルスまで幅広くカバーしている。このように汎用性の高いViral dynamic modelはSARS-CoV-2ウイルス量のモデリングにも適用可能との報告がなされており、いち早く活用した事例の一つとしてNeant et al.があげられる1)。この事例では、SARS-CoV-2ウイルス量の経時推移のみならず、ウイルス量と死亡までの時間との関連性まで同時にモデル化することで、ウイルスクリアランスまでの時間がどの程度短縮すれば顕著な死亡率の低下に繋がるのか、その一つの指針を示すことが可能となった。
ワクチンについてもファーマコメトリクスの適用事例が報告されており、生物製剤投与時の抗薬物抗体生成に関する既存のQuantitative systems pharmacology (QSP)モデルをヒントに、ワクチン接種後の抗体生成についてのQSPモデルを構築し、シミュレーションに活用している3)。これにより、1回目と2回目の接種間隔と生成される抗体量はベルシェイプ型の関係を示し、接種間隔が8週の際に生成される抗体量が最も多いことが示唆された。実際の臨床試験でも同様の報告が(シミュレーション実施後に)なされており、外挿による予測結果の妥当性が示されている。
本発表では、上記のようなCOVID-19の治療薬及びワクチンの開発・最適化におけるファーマコメトリクスの適用事例を紹介した上で、今後の更なる可能性についても言及したい。
1) Neant N, Lingas G, Le Hingrat Q, Ghosn J, Engelmann I, Lepiller Q, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. (2021) 118, e2017962118.
2) https://ir.certara.com/news-releases/news-release-details/certaras-vaccine-simulatortm-accurately-predicted-optimal-timing/ (accessed Sep 1, 2021).