昨年までのセッションでは、医学・科学の進歩の成果として、ファーマコメトリクス解析により得られた用量個別化に必要な情報提供の重要性を訴えてきた。しかし、医学・科学の進歩は新薬の承認要件を益々高度化し、開発費の高騰と開発期間の長期化を招いた側面もある。これは必要とする患者に治療機会を迅速安価に提供する観点だけから見れば好ましくない効果とも言える。一方、承認要件は旧来通り検証試験での薬効検証に依っており、あくまで組入れた比較的均一な患者群における"マス"としての有効性の検証を優先するものであり、反応性や薬物動態の個体差に基づく用量の個別化に必要な情報を得るのに適した試験とは言えない。これまで承認取得時に用量個別化に必要な情報が不十分であった理由はここにある。極論を言えば、承認要件を満たすことが明らかな先駆的で有用な新薬については、より迅速な承認と現場への提供をまず優先し、用量個別化に必要な反応性や薬物動態に影響を及ぼす要因等の情報については、市販後の情報収集と提供を前提として申請時には安全性が担保できる最低限の範囲に留めるという考え方も有り得よう。こうした市販後の臨床使用経験を通した、用量の個別化に必要な情報収集をシステマティックに行う体制を整備し、申請時の情報不足の補間を担保することは、最終的には日本人患者のベネフィットになり得るのではないか。このような市販後に臨床現場での使用経験を通した情報収集において、本邦における臨床薬理学的評価の科学的権威たる臨床薬理学会は、第三者的立場からの情報集約と開発企業へのフィードバックに中心的役割を果たし得ると考える。この体制を具現化する仕組みとして「サロン」という形のシステム構築の可能性を、ここ数年に渡って本学会で提案・議論を積重ねてきた。今年は、実際にこの仕組みが立ち上げられた場合に、どのようなタイムライン・ロジスティクスで行えば持続可能な仕組みとして臨床薬理学会年会のセッションとして組込み得るのか、実現に向けた提案と議論を行いたい。