新型コロナ感染症が我々にもたらした「新しい日常」は生活習慣病の治療にどのような影響を与えているのか。日本医師会では、日本医師会かかりつけ医診療データベース研究事業(通称J-DOME)」を2018年から開始、昨年からは日本高血圧学会と連携している。J-DOMEは、かかりつけ医にかかる糖尿病患者と高血圧患者のリアルワールド・データを収集し、生活習慣病診療の現状把握と推進を行うものである。以下では、その分析結果を紹介する。まず、コロナの感染拡大が始まった2020年4月頃から患者の受診抑制が起こり、既往症の症状悪化が危惧された。2020年4月~9月のJ-DOME糖尿病症例についてHbA1cを2019年と比較すると、「受診回数が大きく減少した」と判断された症例(n=44)のHbA1c値は、前年から大幅に悪化して0.55%増加、「通院がやや減少した」症例(n= 119)は-0.04%、「通院が変わらない」症例(n=744)は-0.07%であった。これら3群のHbA1c変化量に有意な差が見られ、継続的な通院と糖尿病の血糖管理の関係性が示唆された。通院が大きく減少した群でHbA1cが悪化した理由は、処方や指導が行われず治療薬の継続性が失われた、あるいは直近の検査値が分からないため患者の治療意識が下がった、などが推測され、コロナ禍において症状悪化を防ぐための糖尿病治療の継続が示された。次に、2020年のJ-DOME高血圧症例(n=1,647)については、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)とカルシウム拮抗薬がそれぞれ71.5%、69.5%で約7割に処方されていた。ACE阻害薬は2.8%であった。高血圧専門医の症例では利尿薬、β遮断薬がそれぞれ約2割使用されていた。また、高血圧症例の血圧値については、外来血圧が平均136.3/76.6mmHg、家庭血圧が126.1/74.3mmHgで違いがみられた(両方の測定値がある症例n=784を対象)。新しい時代の医療では、ICTを用いた診断・治療やリモートでの対応が確実に増加すると予想され、その中で家庭血圧値はかかりつけ医にとって重要な判断材料となることは言うまでもない。外来・家庭の血圧値の違いの解析とともに、家庭血圧そのものの普及、さらには正確な測定方法の推進も必要であることが示唆された。