ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)とは、従来の放射線治療とは全く異なる機序を利用したユニークな放射線治療で、ホウ素と熱中性子との核反応で生成するα粒子とリチウム核を利用した治療法である。この二つの粒子の飛程が極めて短いため腫瘍細胞一個だけに作用する重粒子線治療であり、副作用の少ない治療法である。総合南東北病院では、経産省平成23年度(2011)第3次補正予算・東日本災害復興関連事業である福島県「国際的先端医療機器開発事業費補助金」より建設資金の一部を受け、BNCT用加速器システムを導入、南東北BNCT研究センターを設立した。2016年7月より再発/局所進行頭頸部癌に対し第2相臨床試験(企業治験)を開始し、2018年2月に21例終了した。その結果をもって2019年10月に薬事申請し、ホウ素薬剤(ステボロニン)、加速器BNCTシステム(NeuCure)及びBNCT線量計算プログラム(NeuCureドーズエンジン)が2020年3月に薬事承認が得られた。さらに、6月1日には保険収載され実臨床が開始された。導入された加速器BNCTシステムはサイクロトロン室、照射室、照射準備室、血中ホウ素濃度の測定のための検査室で構成されている。治療室は2室あり、別フロアには事前に治療体位の決定や患者固定具を作成するためのシミュレーション室や治療計画用CT室を設置、また、ホウ素薬剤を点滴投与するための待機室も5室設けるなど、将来的により多くの患者に本治療を提供することを見据えた構造となっているのが当施設の特色である。2020年6月1日「切除不能な局所進行または局所再発の頭頚部癌」に対する加速器BNCTとして保険収載されたが、治療費は技術料238万5000円、薬剤料44万4000円/パック、薬剤(ステボロニン)は体重18kg毎に1パックで通常3-5パックを使用するので114~223万円、合計350~460万円程度である。高額療養費制度が適用され体重60kgで年収500万円の方の場合は約12万円の支払いとなる。2020年6月より開始された保険診療で2021年6月末までに74例の手術不能・再発頭頚部癌症例に対してBNCTを行った。男女比55:19、平均年齢70.3歳、照射された原発部位は中下咽頭(17例)、口腔癌(12例)が多く、リンパ節転移が22例、組織型は66例が扁平上皮癌であった。照射後3カ月の腫瘍評価が終了した55例での奏効率(RECIST v1.1)は71% (CR26例(47%)、PR13例(24%))と良好であった。