私は、大阪医科大学大学院4年在学時の1987年に、早石修学長 (当時) の早石生物情報研究所共同研究員としてスタンフォード大学睡眠研究所に留学することになった。その後34年にわたり、スタンフォード大学で睡眠研究を続けている。その間、東北大学にはヒスタミンの国際シンポジウムなどで度々訪れる機会があった。本学術総会では、ヒスタミンにちなんで脳内マスト細胞と睡眠に関する研究成果を報告する。ヒスタミン神経のみならず、マスト細胞由来のヒスタミンは覚醒系の伝達を担い、ストレス性不眠、不眠による脂肪細胞等における炎症や耐糖能異常などにも関わるという結果が動物実験で得られた。次に、新型コロナウイルス感染症と睡眠に関する疫学的調査の結果を報告したい。2000年初頭より新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が猛威を振るい、全世界で多くの死亡者を出す事態となった。COVID-19の広がりによって人々の生活習慣や労働様式から睡眠習慣まで大きな影響がみられ、今後、新型コロナウイルスとの共存を考える上で生活変化・職場での生産性の分析は重要である。2020年4月に行った1,000人規模の調査では、コロナ禍の下で特にリモートワークにより睡眠時間は長くなったが、就寝時間が後ろ倒しになり、睡眠の質が低下したケースも多いことがわかった。さらには、コロナ禍が約一年経過した2021年2月には調査対象者10,000人規模で睡眠状態やコロナ感染についての疫学的調査を行い、「マスクをせずに外出(OR 7.01, 95% CI: 4.50, 10.92)」などがCOVID-19のリスク因子として認められた。また調査対象者10,323名中、新型コロナウイルス感染を認めなかった8,693名のうち睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の既往歴がある者は231名(2.7%)であった一方、新型コロナウイルス感染者144名の中でSAS既往者は51名(35.4%)に及んだという衝撃的な結果が得られた(OR 4.93, 95% CI: 2.81, 8.63)。新型コロナウイルスの感染者はインフルエンザの感染リスクも高く(OR 6.30, 95% CI: 3.79, 10.49)、SAS既往者では双方の感染リスクが高いことも分かった。最後に、谷内学会会長より研究成果のみならずスタンフォードでの研究生活やシリコンバレーでの生活も紹介していただきたいとの依頼を受けたので、米国での研究室の主宰者としての研究生活についても紹介させていただきたい。