認知症の最大の原因疾患であるアルツハイマー病は人口の高齢化とともに患者数が増加しており、その治療・予防へ向けた対策が急務となっている。発症や進行を抑止する疾患修飾薬の実用化が待たれる。アルツハイマー病の二大病理像は老人斑と神経原線維変化であり、両病変の構成成分であるアミロイドβ蛋白とタウ蛋白の過剰蓄積が神経変性の誘因となる。したがって両蛋白の脳内蓄積の抑止が当面の治療目標となっており、その最も有力視されている手法は蛋白特異的抗体を用いた免疫療法である。アルツハイマー病における初の疾患修飾薬として、aducanumabが米国で迅速承認を取得したことは国内のメディアでも大きく報じられた。同薬の国内承認は一旦見送られたものの、他の候補薬でも有望な治験データが報告されており、抗アミロイド薬実用化の夢は潰えていない。抗アミロイド薬の開発と並行して、タウを標的とした抗体医薬や、病初期から増加するといわれている反応性アストロサイトを標的とした治療薬の開発も進行中である。これらの新規治療薬の臨床開発を成功させる上で重要となるのが、バイオマーカーの有効活用である。治療対象患者のセレクションや客観的な薬効評価のため、治療標的分子を無侵襲かつ定量的にモニタリング可能なバイオマーカーが活用されてきた。治療標的分子のPETイメージングは画像バイオマーカーとして高い信頼性を有しており、アミロイド、タウ、反応性アストロサイトを画像化するPET薬剤がすでに実用化されている。本講演ではアルツハイマー病の克服を目指した今後の薬剤開発を展望する。