【目的】フェルラ酸は植物に存在する天然化合物である。アルツハイマー病患者の脳内に認めるアミロイドβ(Aβ)の凝集を阻害し、認知機能を改善する効果が報告されており、サプリメントとしても市販されている。レビー小体型認知症患者の脳内にはAβだけでなく、αシヌクレインの蓄積を認められることから、αシヌクレインの凝集・阻害能を有していればより強い予防効果が期待できる。そこで本研究ではフェルラ酸とその誘導体についてαシヌクレインの凝集・阻害効果を検討することを目的とした。
【方法】試験管内でα-シヌクレインとフェルラ酸誘導体を混合して37℃で振盪することで凝集線維化に与える影響を評価した。アミロイド構造に結合する蛍光色素であるチオフラビンTを用いた蛍光法、電子顕微鏡による観察、電気泳動による沈殿物の解析により評価した。また、フェルラ酸誘導体の脳移行性を正常マウスを用いて検討した。
【結果】フェルラ酸はα-シヌクレインの凝集・線維化に対して強い阻害効果を認めなかったが、一方でカテコール基を含むフェルラ酸誘導体であるカフェイン酸はα-シヌクレインの凝集・線維化に対して阻害効果を認めた。構造活性相関研究の結果、α-シヌクレインの凝集・線維化の抑制にはカテコール基が重要であった。カフェイン酸はカテコール基とカルボン酸を有する極めて極性の高い天然物であったため、カルボン酸がフェニルエチル基により保護された天然物カフェイン酸フェネチル(CAPE)に着目し、凝集阻害効果をさらに検討した。その結果、カフェイン酸同様に強い阻害効果を示し、低いながら脳への移行が確認できた。
【結論】CAPEは多様な機能を有したプロポリスに豊富に含まれる天然物であり、本研究によりαシヌクレインの凝集・阻害効果があることが明らかとなった。今後、in vivoにおけるさらなる有用性を確認したい。