ヒスタミンは胃酸分泌やアレルギーに関わる活性アミンであり、脳内でも神経伝達物質として様々な機能を発揮している。これまでの研究により、脳内ヒスタミン系の機能低下と脳機能障害との関連が示唆されており、またヒスタミン放出の増加が脳機能の改善につながる可能性も報告された。以上のことから、脳内ヒスタミン濃度の制御機構を調節し、脳内ヒスタミン濃度を増加させれば、脳機能の改善につながることが期待されるが、ヒスタミン濃度調節機構と脳機能との関連については十分に解明されていなかった。
脳内ヒスタミンは必須アミノ酸であるヒスチジンからヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)によりヒスタミンへと生合成される。そこで食餌から摂取するヒスチジン量を増やして脳内ヒスタミン生合成を増加させることが、脳機能改善につながる可能性を考え、マウスを用いた検討を行った。まずヒスチジン摂取により神経細胞からのヒスタミン放出量が増加することを、in vivoマイクロダイアリシス法を用いて確認した。睡眠剥奪による記憶障害モデルマウスを用いて、ヒスチジン摂取の効果を検討したところ、ヒスチジン摂取群で記憶能の改善が認められた。ヒスチジン摂取により前頭前野や前脳基底部のc-fos発現細胞数が増加しており、これらの脳部位の活性化が記憶能の向上につながった可能性が考えられた。
また神経細胞から放出されたヒスタミンはヒスタミン代謝酵素(HNMT)により不活化される。そこでヒスタミン代謝酵素であるHNMTを遺伝学的に不活化し、ヒスタミン除去機構を阻害した際の影響についても検討した。HNMT floxマウスの脳室内にCre recombinaseを発現するアデノ随伴ウイスルを投与することで、HNMT遺伝子を欠損させた。これによりヒスタミン濃度が上昇することが確認できた。ヒスタミン濃度上昇に伴い、不安様行動の減少、うつ様行動の減少、活動時間帯における自発行動量の増加が認められた。
以上のことから、ヒスタミン生合成を増加させることや、ヒスタミン除去機構を阻害することによる脳内ヒスタミン量の増加は、記憶能の改善や不安様行動の減少などにつながると考えられた。