ものごとを経験してから時間が経過すると、その記憶を思い出しづらくなる。また、認知症においては過去に覚えていた記憶を思い出せなくなる。しかし記憶を忘れてしまっても“ふとした瞬間”に思い出せることから、記憶痕跡は脳内に残っていると考えられる。このように思い出せなくなった記憶痕跡を再活性化させることができれば、失われてしまった記憶想起を回復できると期待されるが、想起を回復させる方法は確立していない。脳内でヒスタミンは神経伝達物質として働き、覚醒や食欲、認知機能などを調節する。これまでに私たちは、ヒスタミンH3受容体拮抗薬が嗅周皮質におけるヒスタミンの放出を増強させて、記憶想起を回復させることを明らかにした。一連の成果から、ヒスタミン神経系の活性化は認知機能障害の治療に有効である可能性が考えられる。しかしこれまでの研究の多くは薬物によってヒスタミン神経系を活性化するものが多く、想起時のヒスタミン神経の活動やヒスタミンによって記憶にかかわる神経活動がどのように調節されるかは不明である。近年、頭部搭載型の小型顕微鏡を用いたin vivoカルシウムイメージングやファイバーフォトメトリーを用いることで行動課題中のマウスの神経活動を記録できるようになってきた。私たちはこうした光操作を用いて、記憶・学習を調節する神経活動の解明を進めている。本発表では私たちの最近の成果を紹介し、ヒスタミン神経による記憶・学習の調節機構について議論したい。