高齢者は、複数の疾患、症状を併存する状態になりやすく、生理的加齢なども影響することから、多角的なアプローチが必要となる。漢方薬は、高齢者の様々な症状、症候に有用であることが近年数多く報告されてきている。高齢者において疾患、併存症状としての頻度が高く、漢方薬のエビデンス報告のある領域としては、循環器系、呼吸器系、消化器系の機能低下に関する症状、認知障害とその関連疾患などがある。本講演ではその中から、下記の内容を中心に紹介する。
1. 心血管系疾患に伴う症状、症候
 高血圧の随伴症状に関する黄連解毒湯のランダム化比較試験(RCT)
 糖尿病に関連する起立性低血圧症に関する五苓散のRCT
 下肢の深部静脈血栓症に伴う浮腫に関する桂枝茯苓丸のRCT
2. 呼吸器系疾患に関連した症状、症候
 嚥下機能障害、咳反射低下、誤嚥性肺炎の二次予防に関する半夏厚朴湯のRCT
 慢性閉塞性肺疾患の急性増悪、慢性炎症、栄養状態、QOLに関する補中益気湯のRCT
3. 消化器系の症状、症候
 機能性ディスペプシア、胃食道逆流に関する六君子湯のRCT
 術後イレウス予防、術後初期の便通改善、早期経口摂取改善、経腸総カロリー摂取量および門脈流量の増加、腹部手術後の周術期における体重減少の抑制に関する大建中湯のRCT
 機能性便秘に関する大建中湯のRCT、大黄甘草湯のRCT
4. 認知症とその関連症状、症候
 認知機能障害、日常生活動作に関する八味地黄丸のRCT
 認知機能障害、認知症の行動・心理症状(BPSD)に関する釣藤散のRCT
 BPSDに関する抑肝散のRCT
5. 筋、関節の症状、症候
 変形性膝関節症に関する防己黄耆湯のRCT
また、複数の診療ガイドラインにも漢方薬について推奨されるようになってきている。診療ガイドラインを参考に高齢者に処方する可能性がある漢方薬は40種類以上に上る。その中には甘草を含む漢方薬も多く、併用には甘草の含有量の確認が必要となる。近年では漢方薬のポリファーマシーも問題となりつつあり、処方の注意点なども含めて紹介する。