目的:慢性心不全は、心筋梗塞等の虚血性心疾患・心臓弁膜症・心筋症等の心臓病を背景とした心機能低下により、脳・腎臓・肝臓等の全身臓器に十分な血液を送ることの出来なくなる疾患である。心エコー検査等で左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)に対し、レニン・アンギオテンシン系阻害薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬、SGLT2(Sodium–glucose cotransporter 2)阻害薬等の薬物療法の有効性が示されており、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)においても、SGLT2阻害薬の有効性が報告されている。こうした薬物治療の進歩にも関わらず、慢性心不全患者は高齢者を中心に本邦のみならず世界的に増加している。更に、慢性心不全では認知症の罹患率が増加することが報告されているが、その原因は明らかでは無い。
方法・結果:我々は、2012–2013年に80名の慢性心不全患者を登録し、脳MRI検査・血液検査等を行う前向き横断観察研究である、慢性心不全における脳の構造・機能に関する臨床研究(B-HeFT: UMIN000008584)を行った。更に、2015–2016年にかけて、B-HeFT登録症例55名(64.9±9.3[S.D.]歳、女性14名)に対し、脳MRI検査・血液検査等をフォローアップする慢性心不全における脳の構造・機能に関する縦断研究(B-HeFT-2: UMIN000020355)を行った。我々は過去にB-HeFT横断研究データを用い、慢性心不全患者における認知機能と脳由来成長因子(BDNF)の関連について報告した。今回我々は、B-HeFT2縦断研究データを用い、脳灰白質量とBDNFの関連を調査した。2012–2013年(pre)・及び2015–2016年(post)に撮影した3D-脳T1強調画像について、脳画像解析ソフトウェアであるSPM 12を用いてpost-preの差分画像を作成し、差分画像を構成する脳灰白質量情報と血漿BDNFのpost/pre比率との相関に関し、年齢・性別を共変量とした多変量解析により検証した。同解析の結果、血漿BDNF(pre/post)比率は島皮質・及び海馬の灰白質と相関を示した(P<0.001)。
結語:慢性心不全患者における脳萎縮の進行・認知機能の低下・認知症の発症等の病態に、BDNFが関与している可能性が示唆される。