【背景】大動脈弁狭窄症の増加に伴い、治療法の一つである経カテーテル大動脈弁置換術は増加している。過去の研究において、重症大動脈弁狭窄症に経カテーテル的大動脈弁置換術を施行後、認知機能が改善する機序を検討した報告はない。一方で、脳血流は心臓と脳を関連付ける重要な因子であり、脳血流量は脳血流シンチグラフィ (SPECT)を用いて測定することが可能である。そこで我々は、重症大動脈弁狭窄症患者において経カテーテル的大動脈弁置換術前後に認知機能と脳血流量を評価し、認知機能と脳血流量の変化との相関を検討した。
【方法】東北大学病院において重症大動脈弁狭窄症に対して、経カテーテル的大動脈弁置換術が施行された患者のうち、経カテーテル的大動脈弁置換術前と術後3ヶ月後に認知機能検査、心エコー検査、SPECT検査が施行された15例 (男性/女性 3例/12例、83.2±4.5[SD]歳)を対象とした。認知機能検査は、記憶機能の評価であるLogical Memory II (LM II)、認知症診断で使用されるMini Mental State Examination (MMSE)、うつ病の評価であるGeriatric depression Scale (GDS)を測定した。心エコー検査では心拍出量、SPECTでは脳血流量を測定した。さらに、認知機能検査と心機能、脳血流量に関して相関があるか検討した。
【結果】 経カテーテル的大動脈弁置換術後3ヶ月後と術前を比較し、LM IIは術後有意に改善を認めた。しかしながら、MMSEとGDSにおいては有意な差は認めなかった。心拍出量は術後3ヶ月後に有意に改善を認めた 。重要なことに、術後合併症である一過性脳虚血発作や脳梗塞を認めた患者はおらず、右海馬を含む局所の脳血流量は術後有意に増加した。さらに、術後心拍出量が増加した患者群では、非増加群と比べて有意に右海馬における脳血流量が増加した。さらに、右海馬における脳血流量と、認知機能検査のLM IIで正の相関関係を認めた。
【結語】 高齢重症大動脈弁狭窄症患者において、経カテーテル的大動脈弁置換術は海馬血流の増加と相関し認知機能が改善することが示唆された。